働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。「現役時代のようなフルタイム勤務ではなく、ストレスなく、少ない時間で続けられる仕事があれば……」と考える人も少なくないだろう。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)

高齢女性の就業率が上がっている
――これまで65歳以上の女性が仕事をするイメージがあまりなかったのですが、いまは働いている高齢女性も多いのでしょうか?
坂本貴志氏(以下、坂本):はい。高齢男性の就業率も増えていますが、それ以上に高齢女性の就業率の上昇が顕著なんです。
いまの高齢世代は、女性はあまり外に出て働くことがなく、主に男性が働く世帯が多かった世代です。ですが、ご存じのとおり働く女性は増えていっています。いまの40代50代女性は働くことが当たり前になっていますから、高齢期も働く女性は今後ますます増えるでしょう。
女性比率の高い職種ベスト3
――65歳以降の女性が多く働いている職種を教えてください。
坂本:男女比のデータを見ると、女性が多い職種は次のようになります。
3位 接客・給仕 73.0%
2位 包装 76.1%
1位 介護・保健医療 87.6%
「接客・給仕」は、飲食店のホールスタッフやホテル・旅館のフロント係、接客担当、娯楽施設などにおける接客員がそうです。人とかかわる側面が非常に強い職種ですね。
――実際によく見かけますのでイメージしやすいです。遊園地でアトラクションの説明など接客をやっている方を見て、私も将来やってみたいなと思いました。
「包装」とはどんな仕事なのでしょうか?
坂本:製品の袋詰め、箱詰め、ラベル貼りなどをする「製品包装作業員」、工場や倉庫で梱包された荷物に伝票などのシールを貼る「シール貼り作業員」、スーパーのバックヤードで野菜や果物、鮮魚、精肉、総菜を袋やパックに詰めて値札シールを貼るなどの作業をする「スーパーのバックヤード作業員」、百貨店の配送センターなどでギフト包装をする「ギフト包装作業員」といった仕事です。
重い荷物を持つなどの業務が少ないですし、労働時間も比較的短いので選びやすいのではないかと思います。
女性が9割「介護・保健医療」の仕事
――9割近くが女性という「介護・保健医療」はどんな仕事でしょうか。
坂本:介護保険法にもとづく専門職の「訪問介護員(ホームヘルパー)」、老人ホームやデイサービスなどで入所者・通所者に対して介護を提供し生活全般を援助する「施設介護職員」、病院などで医師や看護師の指示のもと患者のケアや周辺業務を行う「看護助手」、歯科医院などで受付・会計、診療器具の洗浄・消毒などをする「歯科助手」のほか柔道整復師助手、鍼師助手、あん摩マッサージ指圧助手、動物病院助手などの仕事があります。
やはり人と接することが多い仕事で、そこに魅力を感じて選ぶ女性が多いのではないでしょうか。
アンケート調査でも、仕事の良い面として「『ありがとう』と感謝され、頼りにされるとうれしい」など、「人に感謝される」「人の役に立てる」という内容のコメントが多かったです。
短時間でそれなりに稼げる
――介護や保健医療というと、ちょっと大変そうな気がするのですが……。
坂本:資格が必要で、年を取ってから資格取得するのは難しいのではないかとか、体力的にもちょっときついのではないかと思う人も多いかもしれません。
ただ、シニアの方が携わっている介護・保健医療の仕事は、現役世代のものとはちょっとイメージが違うんです。
たとえば、看護師として働くというより、看護助手として身の回りのサポートを中心にしていたり、介護に関しても現役世代の方のサポートをしていたりする方が多いです。
必ずしも資格が必要なわけではなく、軽めの仕事を担っているのです。データを見ても、労働時間は短めです。平均労働時間は週25.5時間。短時間の仕事が多くて、週14時間以下の方が22.3%、15~21時間の方が18.6%いらっしゃいます。
高齢女性も就業はじゅうぶん可能ですし、今後もこのニーズは増えるでしょうね。
――この分野はとくに人手不足ですもんね。
坂本:そうなんです。看護師さん、介護士さんがとても忙しくなっているので、資格がなくてもできる軽めの仕事は外に出して行こうという動きがあります。
――だいぶイメージが変わりました。軽めの仕事で短時間ならできるかも、という気がします。
坂本:それなりに稼げる仕事でもあるので、人と関わることが好きな人にはおすすめしたいですね。
――現在の女性比率でのランキングを教えていただきましたが、高齢女性の就業率は今後も上がっていくので、また変わっていくかもしれませんね。
坂本:そうだと思います。多くの職種でいまは男性比率が高いですが、今後は女性も増えていくでしょう。
たとえばドライバーの仕事や、マンション管理・公園管理など施設管理の仕事は男性が多いです。でも、高齢女性に向いていないわけではありません。今後は増えるのではないかと思っています。
(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。