禁煙成功の鍵は
磁気刺激にあり?
これに立ち向かうため、現在、禁煙治療に対して、さまざまな方法が試行錯誤されています。
たとえば、台湾の研究者たちは、ニコチン依存症の被験者710人を対象に、脳にダメージを与えずに刺激を与える非侵襲的脳刺激法の効果を比較検討しました。
その結果、左おでこの内側の脳部位を磁気によって活性化した場合に、禁煙効果がもっとも高まることが判明しました。この脳領域は、主にやる気や集中力を発揮する際に活性化する部位で、同様の磁気刺激治療法は、うつ病の症状の緩和にも用いられています。
この磁気刺激は、ドーパミン放出を増加させることが知られています。ドーパミン受容体のバランスが崩れた状態で、禁煙によってドーパミンの放出量を減らしてしまうと苦痛が生じるので、ドーパミン量を徐々に減らすなど、うまくコントロールしながら、受容体の数が元に戻るのを待つことができるのだと考えられます。
喫煙の欲求は単にニコチン依存症だけでなく、複合的な行動嗜癖であるともいわれており、「この方法だけで絶対にやめられる」というわけではないので注意が必要です。
・Tseng, PT. et al. Efficacy of non-invasive brain stimulation interventions in reducing smoking frequency in patients with nicotine dependence: a systematic review and network meta-analysis of randomized controlled trials. Addiction., 117, 1830-1842(2022)
アルコール依存で
年間260万人が死亡
お酒の席で失敗して、「もう2度と飲むまい」と誓ってもついまた飲んでしまうもの。これが行きすぎると、お酒なしではいられなくなり、アルコール依存症に陥ってしまいます。
2019年のWHO(世界保健機関)の報告によると、世界中で推定4億人がアルコール使用障害を抱えており、そのうち2億900万人がアルコール依存症に苦しんでいます。さらに、アルコール消費が関係する死者は、年間260万人に上り、全死亡数の4.7%を占めるといわれています。
このような衝撃的な数字が示すように、アルコール依存症は世界的な公衆衛生の大きな問題ですが、一方で、なぜこれほど多くの人々が依存症に陥るのか、その根底にある脳内メカニズムは、いまだ完全には解明されていません。