意志が弱いわけじゃない!?お酒がやめられないのは脳のせいだった写真はイメージです Photo:PIXTA

「何度も禁煙に失敗している」「なかなか酒を控えられない」…それは意志の弱さではなく、脳の“報酬回路”のせいかもしれない。脳神経科学の第一人者・毛内拡氏は、嗜好品依存は生物学的なメカニズムで説明できると語る。依存症の背景にある脳との関係とは?※本稿は、毛内 拡『最新研究でわかった! くじけない脳のつくり方』(日経ビジネス人文庫)の一部を抜粋・編集したものです。

禁煙に失敗するのは
根性不足ではなかった

 禁煙にとっての最大の敵は、ニコチン依存症です。

 ニコチンは、肺から吸収されるとわずか15秒で脳に達し、ドーパミンの分泌を促し、高揚感を生み出します。長期的にニコチンにさらされると、脳はそれに対応するためにドーパミンを受け取る受容体の密度を変化させることが知られています。

 この状態で、突然禁煙してニコチンレベルが下がると、ドーパミン量も下がります。しかし、受容体の数はそのままなので、バランスが崩れて頭痛や不快感などさまざまな不調を引き起こします。これが「禁断症状」と呼ばれる状態です。

 この禁断症状を緩和するために、たまらず禁煙を破ってしまいます。喫煙者の約75%が禁煙を試みた経験があるそうですが、その大半は失敗に終わっているようです。これは、「心がくじけた」という現象に見えるかもしれませんが、決して意志の弱さや根性不足が原因ではありません。

 実際、伝達物質と受容体のバランスのように、生物学的な報酬系や依存回路の仕組みが深く関与しており、長年のニコチン摂取で変化した脳の状態が、禁煙に挑戦するたびに大きな壁として現れるのです。