人には「山」と「谷」がある

吉田:ドラッカーは『経営者の条件』の中で「成果をあげるには、人の強みを生かさなければならない」としたうえで、こんなことを言っています。

「大きな強みをもつ者はほとんど常に大きな弱みをもつ。山あるところには谷がある。しかもあらゆる分野で強みをもつ人はいない。人の知識、経験、能力の全領域からすれば、偉大な天才も落第生である。申し分のない人などありえない。そもそも何について申し分がないかも問題である」

どのような人にも性格があるように、生まれつきの資質があります。何かの分野で秀でていたとしても人間というものは長所と短所という表裏一体のものを備えています。

その人ならではの資質、つまり強みに焦点を当てよとドラッカーは言っているのです。

――では、その「強み」はどう見極め、どう活かせばよいのでしょうか?

吉田:そもそも組織には社会において特有の役割を果たすミッションがあるはずです。そのミッションを通じて成果を生み出す必要があります。

ドラッカーは「すべての成果は外にある」と言いました。成果とは外の世界における“変化”のことを指しています。つまり、「顧客」にとって意味のある成果を生み出すことが目的になります。

そのために、組織は戦略を立て、実行し、成果を追求する必要があります。そのプロセスの中で、一人ひとりが自分の「強み」を活かして貢献していくのです。

「なすべきこと」から逆算して人を見る

吉田:ドラッカーは「仕事は客観的に設計しなければならない。人の個性ではなく、なすべき仕事によって設計しなければならない」とも言っています。

まず、なすべきこと。つまり「仕事が先」にあるのです。

どんな仕事が現在の組織にとってなすべきことなのかを念頭に置いたうえで、「優秀な部下が欲しい」の「優秀」とはどういうことなのかをもっと具体的に見ていくとよいかもしれません。

――「優秀さ」の意味を、組織の目的やミッションに照らして定義し直す必要がある、ということですね。

吉田:はい。ただ優秀そうに見える人を集めても、組織の成果にはつながりません。

大切なのは、組織の目的を果たすために、いまなすべきことは何か。それに対して、誰のどの「強み」が貢献できるか。この視点を持つことこそ、リーダーの役割だと思います。