プロ野球における天覧試合はいまだにこの1試合だけ。そこで結果をしっかりと出した。今風に言うなら“持っている”ということになる。
それまで、どちらかというと軽んじられていたプロ野球は長嶋の実力と活躍とともに、常に注目を浴びることになる。以降、上昇気流に乗った日本経済の発展を、人々は長嶋の活躍に重ね合わせた。
ジャイアンツ入団とテレビ放送が
長嶋を唯一無二のスターへと導いた
日本では、昭和28年にテレビ放送が始まっていた。
野球雑誌の老舗ベースボール・マガジン社では『月刊ベースボールマガジン』を、長嶋の巨人入団を機に、『週刊ベースボール』に週刊化した。栄えある創刊号(昭和33年4月16日号)の表紙は、ゴールデンルーキー・長嶋と「神宮の貴公子」と呼ばれた広岡達朗(早稲田大→巨人)の2人が飾っている。
プロ野球は映画やコンサートと同じ「娯楽」である。
しかし、映画やコンサートは2、3度行けば十分だろうが、「筋書きのないドラマ」である試合は、リピーターを呼べる。負けても勝っても、もっと応援したくなる。スポーツビジネス的観点からすれば試合と選手は優良なコンテンツなのである。
しかも、思ってもみない活躍を遂げる長嶋は筋書きのないドラマの主役であり、絶対的ヒーローなのだ。
ひと昔前の球団の親会社は東映などの「映画会社」、巨人・中日などの「新聞・テレビ会社」、阪神・阪急などの「鉄道会社」が多かった。新聞・テレビ会社は自チーム選手を独占取材できるし、鉄道会社は観客を郊外にある球場に連れて行って乗車賃を稼ぐメリットがある。
現役17年間で首位打者6度、本塁打王2度、打点王5度、MVP5度、不滅のV9。引退試合、後楽園球場のオーロラビジョンには「ミスターG栄光の背番号3」の文字が映し出された。
監督としてリーグ優勝5度、日本一2度。長嶋茂雄は「ミスタージャイアンツ」として君臨したからこそ、読売系列の新聞とテレビでドラマチックなヒーローとして大いに取り上げられた。そして、国民的英雄となったのである。
中日のリーグ優勝が霞むほど
衝撃的だった長嶋の引退
「巨人軍は永久に不滅です」引退セレモニーで球史に残る名言を残してバットを置いた長嶋茂雄。