2040年の政府債務対GDP比の見通し

国と地方を合わせた日本の政府債務の残高は、2023年度末で1220兆円に上る。対名目GDP(国内総生産)比で見ると206%と、先進国の中で最悪の水準にある。これまでのところ日本の財政が行き詰まることなく、拡張的な財政運営が可能だったのは、長期金利が低位に維持されたことで、国債を円滑に増発できたためである。
もっとも、足元ではインフレが定着しつつある中で、金融政策が徐々に正常化されており、日本の財政運営を支えてきた「長期金利の低位安定」という前提は崩れつつある。このため、財政再建の必要性はかつてないほど高まっている。
経済理論に基づけば、長期金利(名目長期金利)は、経済の成長期待を反映した「実質長期金利」と「期待インフレ率」、債券がデフォルトする可能性などを反映した「リスクプレミアム」という三つの変数で構成される。実質長期金利に日本の潜在成長率(0.5%)、期待インフレ率に日本銀行の物価目標(2%)、リスクプレミアムに日銀が「異次元の金融緩和」を導入する以前の平均的な上乗せ金利(0.5%)を当てはめると、名目長期金利は3.4%となる。足元の長期金利は1%台半ばで推移しているものの、金融政策が正常化し、インフレが定着した世界では、3%前後の長期金利が実現しても不思議ではない。
長期金利が本格的に上昇すれば、国債の借り換えが進むにつれて利払い費が増加し、政府債務は一段と積み上がる。仮に、長期金利が3%前後に上昇し、基礎的財政収支の赤字が現状のまま続いた場合、政府債務の対GDP比は40年に237%に達する。こうした上昇を食い止めるためには、財政収支の大幅な改善が必要となる。
政府は、これまで基礎的財政収支の黒字化という財政健全化目標を掲げてきたものの、目標の達成に向けて財政運営を管理する仕組みやルールは存在せず、目標の達成は先送りされてきた。長期金利の上昇が本格化する前に、中期の財政計画や財政ルールを定めることで、財政再建に向けた道筋を付ける必要がある。
(日本総合研究所 調査部 副主任研究員 村瀬拓人)