
1989年の「世界時価総額ランキング」では、日本企業32社がトップ50入りを果たしていた。しかし、バブル景気の崩壊を機に凋落し、2024年の同ランキングで上位50社に入ったのは39位のトヨタ自動車のみだった。日本企業が競争力を失うなか、外資系IT企業でフィールドマーケティングの経験を積んだ友廣啓爾氏は、そのキャリアを日本企業で活かすべく富士通に入社。そこで営業のデジタル化を推し進め、営業DXを実現したという。創業90年の老舗企業で大変革を起こした著者が「デジタルセールス」の重要性を説く。※本稿は、友廣啓爾『富士通式!営業のデジタルシフト カルチャーを変え、売上の壁を超える方法』(翔泳社)の一部を抜粋・編集したものです。
富士通が大方針に掲げた
「DX企業への進化」
DX(編集部注/デジタルトランスフォーメーション。デジタル技術を活用して業務やビジネスモデルを変革すること)の重要性は、すでに多くの経営者が認識しています。調査(※)を見ても、従業員数が1001人以上の大企業では、約3分の2の企業がすでに対応に取り組み、そのうちの4割近くがその専門部署を設定しています。
(※)…参照データ元:帝国データバンク「企業のDXへの取り組みに関する動向調査」https://www.tdb.co.jp/report/economic/tur6yws4nrm1/
富士通では、全社規模でのDXの取り組みが大きな方針として掲げられている中、私たちはマーケティング部門内でデジタルセールスの組織化をボトムアップで立ち上げ、営業とマーケティング活動の変革に着手しました。
ここで、私たちデジタルセールスがスタートした背景について説明します。富士通が「IT企業からDX企業に進化します」と宣言したのは、2019年9月のことでした。富士通は通信機器のメーカーからスタートし、パソコンやコンピューターの開発を手掛けていることから、一般的にはメーカーとして認識されているかもしれません。
この業態から新たなサービス創出や事業拡大を目指すために、会社の大方針として掲げたのがDX企業への進化です。これは大きな方針転換です。IT企業とDX企業とでは、商品の売り先となる顧客が異なるからです。売り先が違えばニーズも違い、売り物である商品も変わります。
売り先と売り物が変わるなら、売り方も変わらなければなりません。当時の富士通の売り先は既存顧客が多く、新たな売り先として新規顧客を増やす売り方が必要でした。売り物についても多様な商品群がありますが、より広範囲に売り込むために、やはり新しい売り方を確立する必要がありました。