「あなたの話は、長くてくどい」MECE病の人がやりがちなNG報告とは?
「1つに絞るから、いちばん伝わる」
戦略コンサル、シリコンバレーの経営者、MBAホルダーetc、結果を出す人たちは何をやっているのか?
答えは、「伝える内容を1つに絞り込み、1メッセージで伝え、人を動かす」こと。
本連載は、プレゼン、会議、資料作成、面接、フィードバックなど、あらゆるビジネスシーンで一生役立つ「究極にシンプルな伝え方」の技術を解説するものだ。
世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを取得し、戦略コンサルのA.T.カーニーで活躍。現在は事業会社のCSO(最高戦略責任者)やCEO特別補佐を歴任しながら、大学教授という立場でも幅広く活躍する杉野幹人氏が語る。新刊『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』の著者でもある。

「あなたの話は、長くてくどい」と言われる人の共通点
元々はコンサルティング業界で主に使われていた言葉で、その後ビジネス一般に広がった言葉の一つに「MECE(ミーシー)」がある。
MECEとは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略だ。日本語では「漏れなく、ダブりなく」とも言われる。
例として、1年をMECEに分解するケースを考えよう。いろいろあるが、例えば、次のようなパターンがあり得る。
上半期、下半期。
1月、2月、3月、4月、5月、6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月。
春、夏、秋、冬。
繁忙期、閑散期。
誕生月、その他の月。
これ以外にもいくらでも考えられる。1年をMECEに分けようと思うと、このようにいくらでもパターンはあるように、MECEには絶対的な正解はない。あくまでも、整理のためのものだと思えばよい。
事業会社のビジネスパーソンでも、そして、いまや大学生でも就活などでMECEという言葉を使う人に出会うことがある。
しかし、MECEに拘り過ぎて、意味のないMECEの使い方が蔓延してもいる。伝え上手は、MECEに拘らない。もっと大事なことがあるからだ。
伝え上手がMECEよりも大事にすることとは?
むかし、わたしが新人コンサルタントだったときで、シャイで無口なベテランコンサルタントと仕事をしていたときのことだ。
ある中堅のコンサルタントが、そのベテランコンサルタントに対してプロジェクトの進捗を報告していた。特に、次の中間報告でクライアントに伝えたいことを共有していた。
企業の問題点、それらの問題点の原因、各原因に対しての打ち手の仮説、そして、それらの部門別のセット。漏れなく、ダブりなく、いわゆる、MECEにいろいろと報告していた。
しかし、そのシャイで無口なベテランコンサルタントはそれらの内容には気を留めず、一言だけ聞き返した。
「中間報告で、一番伝えたいことはなんなの?」
中堅コンサルタントは、想定外だったのかそれに即座に返答できず、しどろもどろになった。慌てて、「課題は…」などといろいろと言い始めたが、それをシャイで無口なベテランコンサルタントが遮って、やさしい口調で補足した。
「ごめん、さっきの内容は整理されていてわかったのだけど、なにが一番大事なのかがわからなかったから聞いているだけ。MECEは整理であって、中身じゃないし、答えじゃない。クライアントはMECEじゃなくて悩んでいるのではなく、答えがなくて悩んでいるんだよね。だから、中間報告でクライアントに一番伝えたい1メッセージは答えであるべきだし、それを聞いている」
中堅コンサルタントは、真っ青になっていった。
当時駆け出しの新人だったわたしは、どこかで「コンサルならMECEでしょ」みたいな先入観で支配されていたため、聞いていて殴れたようにショックを受けた。
結局、そのベテランコンサルタントのアドバイスを受けて、中堅コンサルタントは中間報告の1メッセージをつくり、それをクライアントに冒頭に伝えた。
結果として、クライアントに刺さり、残りの資料の説明もクライアントの納得を呼び起こし、プロジェクトは無事に折り返していった。
MECEよりも、1メッセージに拘ろう
MECEは伝えるための手段に過ぎない。整理が必要なとき、すなわち、整理が価値になるときだけの手段だ。そして、整理はどこまでいっても、問題解決の答え自体にはならない。
問題を解決するのは、MECEのような整理ではなく、どこまでいっても答えとその実行だ。答えは、常にMECEに勝る。伝え上手は、MECEに拘らずに、答えに拘る。そして、伝え上手は、答えを相手に理解しやすいシンプルな1メッセージで届ける。
さぁ、MECEに拘るのを卒業して、1メッセージで伝えることに拘ろう。
(本原稿は『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』を一部抜粋・加筆したものです)