ダイエットをしているのに甘いものが食べたくなる。仕事を終わらせたいのにスマートフォンが気になる。このように、我々の周りには目標達成を阻む誘惑が溢れている。つい誘惑に負けて、「自分は意志が弱い」と落ち込んだ経験がある人も少なくないだろう。モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹氏は、「誘惑への対処が目標達成の成功のカギを握るといっても過言ではありません」と語る。では、いったいどうすれば誘惑に打ち勝つことができるのだろうか。本記事では外山氏の著書『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』をもとに、その方法を伝授する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
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自制心を最大限発揮する方法とは?
今日やるべきことが山積みでも、ついスマホに手が伸びてしまう。
自他共に認める“スマホ中毒”の筆者は、誘惑に負けることが多く、自制心の弱さを痛感している。
人によってはそれがダイエット中の甘いものだったり、禁煙中のタバコだったりすると思うのだが、こうした「誘惑」に打ち勝つにはどうしたらいいのだろうか。
そもそも人は、「したいことをしない」、あるいは、「したくないことをする」時には、自制心が必要となる。
外山氏によると、人は「こころのエネルギー」を使って、頑張って自制心を発揮させている状態なので、使いすぎるとガス欠状態になり、しばらくそれが使えなくなるのだという。
そのため外山氏は、「ここぞという大事な場面で自制心を発揮できるように、私たちはなるべく資源を有効に使う(無駄なものに資源を使わない)ことが重要になってくる」と指摘する。
そこで今回は、何でもかんでも自制心を発揮しないために効果的なものを、本書の中からいくつか紹介していく。
①誘惑を排除する
当たり前のことと思われるかもしれないが、そもそも誘惑に打ち勝つには、その原因を遠ざけるのが鉄則だ。
ゲームが誘惑となっている人は、ゲームが終わったら決まった位置に片付けて、勉強や仕事をしている時には目に入ってこないようにする。
スマホが誘惑になっている人は、スマホの電源を切って、机の引き出しなどにしまっておく。
「誘惑となる対象を遠ざけるという原始的な方法が、実は抜群の効果をもつ」と外山氏は語る。
また、目標に向けて行動を起こす前に、「ちょっとだけ」と思って、誘惑となる対象に触れてしまうのも良くないという。
ちょっとだけだったら問題ないだろうと考えがちなのですが、実は、この「ちょっとだけ」というのが大きな罠になります。(P.257)
なぜなら、人間は「慣性の法則」と同じように、一度走り始めたことに、ブレーキをかけるのがとても苦手だからだ。
だから、「始める前にやめる」ことを意識するのが大事だ。初めから手を出さないことが、自制心を使わないための効果的な方法なのだ。
②人間関係を見直す
目標の達成を目指す他者の姿を目にすることで、人は気づかないうちに、自らも同じ目標を求めようとすることがあるそうだ。
そして、あなたにとって望ましい目標だけでなく、望ましくない目標である誘惑でさえも、周りの第三者から伝染することがあるという。
ある期間に肥満になった友人がいた場合、その人が後に肥満になる確率は57%も高まるというから、驚きの結果です。(P.266-267)
つまり、困難な目標を目指していて、少しでも自制心を無駄にしたくない場合は、自分の目標とは正反対の行動をとっている他者と距離を置く必要があるということだ。
③「なぜ」を考える
モチベーションが下がった時や、誘惑に負けそうになった時には、その行動をとる理由(なぜ)を意識的に考えるようにするといい。
そうすることで、モチベーションが高まり、誘惑に負けない強い気持ちをもてることがわかっているのだ。
誘惑に負けそうになったら、自分の夢や目標を思い出すことで、誘惑に立ち向かうモチベーションが湧いてくることでしょう。(P.274-275)
また、このことはモチベーションを上げるだけでなく、「無駄な目標をあきらめることにもつながる」と外山氏は指摘する。
時間や労力は無限ではないことを考えると、邁進する必要のない目標に、いつまでもこだわっているのはもったいない。
だからこそ、「なぜ」を考えて、より重要な目標に、時間やエネルギーを割くことを考えるのは大事なことなのだ。
自制心を温存し、大事な場面で発揮する
そもそも人の自制心を発揮するには限界があり、意志の力だけで物事を成し遂げるのは、非常に大変なことである。このことを理解することは、目標を達成するうえでも重要なことだ。
そのため、今回紹介したような「誘惑に打ち勝つ方法」を知っておくことで自制心を温存し、ここぞという大事な場面で大いに発揮できるようにしておきたいものだ。
「意志が弱いな」と思うならなおのこと、誘惑を排除して、目標達成に向けて邁進しなければならない。
筆者も明日からは、朝起きてすぐスマホを触らないように、寝室にはスマホを持ち込まないようにしようと誓った。








