「好きだけど他に才能がある人がたくさんいること」「好きではないけれど他の人よりできること」どちらを仕事にするべきなのでしょうか?
新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回、『EXPERT』の著者、ロジャー・ニーボン氏へのインタビューが叶いました。南アフリカで外科医として病院勤務を経験後、イギリスで総合診療医として活躍、現在はロンドンに本部を置く世界有数の理工系名門大学の一つであるインペリアル・カレッジ・ロンドンで外科教育の専門家としてエキスパートについて研究している彼に、「好きな仕事」と「得意な仕事」のどちらを選ぶべきかについて聞いてみました。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)

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「好きな仕事」と「得意な仕事」はどちらを選ぶべきか

――「好きな仕事」と「得意な仕事」のどちらを選ぶべきでしょうか。キャリア選択についてアドバイスをお願いします。

ロジャー・ニーボン氏(以下、ロジャー氏):この二つは必ずしも対立する関係ではないと私は考えます。理想的には、好きなことが得意な仕事になるのが最も望ましい形でしょう。

もちろん、最初から自分が好きで、かつ得意な仕事に就くことができる幸運な人もいます。しかし、そうでない場合でも、「やりながら好きになる」というプロセスも十分にあり得ます。

重要なのは「辛抱強さ」と「粘り強さ」です。仕事の初期段階でまだうまくできない時や、面白さを感じられない時は、その仕事を辞めたくなるかもしれません。しかし、その「不快な初期段階」を乗り越え、努力を続けることでスキルを習得し、仕事の面白さや奥深さを理解できるようになると、やがてその仕事が好きになることがよくあるのです。

私自身の経験として、外科医から総合診療医(家庭医)への転身を例に挙げましょう。外科医時代は専門性が明確で、自分が助けられる患者とそうでない患者がはっきりしていました。

しかし、総合診療医に転身した当初は、全く異なる種類の仕事に直面し、正直に言って戸惑いと無力感を感じました。医療的な問題だけでなく、患者の家庭や学校の問題など、多岐にわたる相談に対応しなければならず、これまで外科医として経験してこなかった知識やスキルが必要でした。

初めは自分には向いていない、うまくできないと感じた時期もあったものの、そこで諦めずに長く努力を続けたことで、徐々に自信がつき、人々を助けられるようになりました。問題に対処し、患者を最適な方法でサポートできるようになった時、私はこの仕事に深い喜びを感じ、好きになったのです。この経験から、「時間をかけて好きになっていく」ことの重要性を実感しました。

やりたくない仕事を任されたら

――『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』には「見習い」の章がありますが、日本の会社員にとって、上司の期待に応えることと、自分が本当にやりたいことが違う場合、どちらを優先すべきだとお考えですか?

ロジャー氏:私は、多くの場合、これら両方を満たすことが可能だと考えています。見習いのフェーズでは、他者から指示されたことを行うのが基本ですが、これは後に独立するために必要なスキルを習得するためのプロセスであると捉えることができます。上司の期待に応えることは、職場で継続していく上で不可欠ですが、その期待に対する「捉え方」は自分でコントロールできます。

単に「やらなければならないから」ではなく、「将来の独立や自己成長のために必要な経験である」と前向きに捉えることで、退屈に思えるタスクも意味のあるステップへと変わります。仕事への深い関与と懸命な努力を通じて、最初は好きでなかった仕事もやがて好きになる可能性を信じ、諦めずに続けることが、充実したキャリアを築くための鍵となるのです。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』の抜粋記事です。)