どの分野でも「極めた人」というのはいったいどのように世界を見ているのでしょうか?
新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。本記事では、達人の目線で世界を見るということについて、『EXPERT』本文より抜粋してお届けします。

一流 プロPhoto: Adobe Stock

なぜ達人の技術は言葉で説明できないのか?

この本で私は、達人とは何か、達人になるとはどういうことかを論じる。私は物心がついたときから、すぐれた専門性を発揮する達人のことを考え続けてきた。何年も彼らを観察し、彼らと話し、ともに働き、彼らについて考え、彼らから学び、魅了されてきた。

ここ数年、私にとって「エキスパート」は、大学での教育や研究の中心テーマになっている。人はどのようにして達人になるのか─個人としてであれグループとしてであれ─ということを考え続けている。論文や本を読みあさり、さまざまな分野で世界をリードする達人たちと長い時間をともに過ごし、何が達人を達人たらしめているのかを突き止めようとしてきた。その過程で私の心をつかんで離さなかったのは、達人が持っている「専門的能力」のリストではなく、生身の人間としての奥深さだった。

経験を超えた「内なるプロセス」

専門的能力を持つことと達人であることは違う。私は達人だろうか。医師の資格を取得してから四〇年以上経つので、傍目にはそう見えるかもしれない。次章で詳しく話すが、資格取得後、私は外科の上級専門医〔イギリスの医師の資格区分。専門分野における最上位の常勤医師。診療の最終判断の責任を持つ〕になるための研修を続け、イギリスと南アフリカで何年にもわたって手術を行った。その後ほぼ二〇年間、イングランド南西部の小さな町で総合診療医として働いた。現在はインペリアル・カレッジ・ロンドン〔理工・医学系の名門大学〕の教授として、「エキスパート」について研究し、学生に教えている。だが、自分を達人だと思ったことはない。これまでの経験の意味がようやくわかり始めた、というのが正直なところだ。これまで私が話を聞いた多くの達人も、似た感覚を語っている。