アヘン戦争も尖閣諸島問題も、なぜ突然態度を豹変させるのか?中国の予測不能な行動の原点写真はイメージです Photo:PIXTA

尖閣諸島は日本が実効支配を続け、中国側も大きく問題化しない時期が長く続いていた。しかしあるときを境に、抗議や領海侵入が頻発し、強硬な姿勢をとるように。その豹変ぶりに日本人は驚くばかりだが、この行動の背景には儒教が深く影響しているという。昔から変わらない、中国人の行動原理とは?※本稿は、早稲田大学教授の岡本隆司『教養としての「中国史」の読み方』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。

官僚が高給を得ることは
儒教の教えでは許されない

 官吏が「官」と「吏」に二元化された(編集部注/官吏とは、現代で言う官僚。中国では、「官」は中央政府が任命し派遣する正式の官僚を意味し、「吏」は必ずしも中央政府が任命しない、臨時の人員を意味する)メリットは、皇帝による独裁制の確立のほかにもありました。それがチープガバメントの存続です。

 なぜ、なんでも大きなものをよいものとする中国において、小さな政府であることが望まれたのでしょう。

 それは、財政をできるだけ小規模に抑え、なるべく税金を取りたてないことこそが「善政」だとする儒教にもとづく理念があったからです。

 財政を抑えるためには、自ずと公務員の俸給も抑えられます。中国歴代の政府官僚の俸給は、そのため驚くほど少額です。

 たとえば、18世紀初頭の河南省の全域を所轄する民政官の年俸は、わずか銀155両でした。河南省の広さは、北海道と九州を合わせた面積よりも大きなサイズです。その省のトップですから、今でいえば県知事クラス以上になります。その年俸の銀155両が現在の金額でいくらに相当するのか、簡単にはいえないのですが、200万円くらいでしょうか。

 これでは、単身でも足りないでしょう。ましてや、士大夫(編集部注/科挙に合格した官僚や、儒学の教養を持つ知識人階級)ともなれば数百人にのぼる一族郎党を養わなければならないのですから、これだけの俸給でまかなえるはずがありません。