「子育てに疲れる」「子どもの将来に不安を感じる」「子どもを愛するよりも完璧な親になることを優先してしまう」「それが間違っているとわかっているのに、他の家族に合わせてしまう」など、子育てに苦悩する親は数多くいます。そんな親たちが考えを変え、行動を変えた育児療法がいま、話題に。アメリカで20年以上親子と向き合ってきた医師による医療現場の専門的な知識をもとにした新刊『ジョンズ・ホプキンス大学児童精神科医が教える 育児の本質』より、実用的で誰もが取り組めるシンプルかつ具体的な子育て法を紹介していきます。

トレーナーではなく、サポーターに
最近、こんな話を聞きました。その女性は子どもの教育に熱心な人でした。一生懸命勉強させ、塾にも通わせました。子どもは精一杯努力し取り組んでいたようですが、ある日、思いもしないことが起こりました。お母さんを喜ばせたくて頑張ってついてきていた子どもが、中学生になると急に反抗するようになったのです。悩んだ女性は、私の講演を聞いて改心したそうです。
「子どもに無理を強いるべきではなかった。トレーナーではなく、サポーターになるべきだったんだ」
子どもが関心を持ったことでも、親が気に入らなければ無視してしまうことは多いものです。しかし、子どもの関心と興味を尊重して耳を傾ければ、そこから多くの可能性が生まれることもあります。動物について学び、生物学を勉強するなど、趣味から学習につなげることもできます。子どもたちが大人になるころには、好きなことで生計を立て、幸せに生きられる道が増えます。職業にならなくても、日常を彩る趣味になることもあります。
何より重要なのは、その子どもにとって親が自分の考えに耳を傾け、尊重してくれたという経験を身をもってできることです。親が子どもの多様性を尊重すれば、子どもは自分の存在価値を知り、より幸せな道へ進むことができます。
込み上げる不安を飲み込み、勇気を出してと言いたいです。何十年も同じ方向に進み続ける既存の流れに身を任せるより、子どもならではの才能を活かせるようにするほうが未来への備えになります。それぞれの持つ多様性に十分に価値があることを教えずに、ただ1つの道、たとえばいい大学を出て大企業に就職することに価値があると教えれば、その道に進めない人が抱くのは劣等感です。劣等感は、多様性が枯れたところに芽吹くのです。また、劣等感は低い自尊感情へとつながります。
自分が望む方向へ子どもを猛特訓するトレーナー化という罠に陥らないでください。子どもを尊重し、自ら自分の道を見つけられるよう支えるサポーターになってください。そうしてこそ、健全な自尊感情を持ち、自ら道を探す主体的な子どもを育てられます。
(本原稿は、『ジョンズ・ホプキンス大学児童精神科医が教える 育児の本質』からの抜粋です)