
「うちのこの残りの命、嵩さんにあげるきね」
最終回を中園ミホは100通りも考えて、そこからチョイスしたという。100通り、いったいどんなラストだったのだろう。
病気になったのぶに嵩(北村匠海)は寄り添う。嵩のモデルのやなせたかしはなんで気づかなかったのだろうと悔やんだと自著に書いている。痩せて、顔に染みが増えていたとか。今田美桜は痩せてはいなかったが、染みメイクは入念だった。
のぶの手術が終わって1週間後。のぶは病室中にアンパンマングッズを置いて、看護師さんたちに配っていた。一番人気はドキンちゃんだった。
嵩はドキンちゃんの「いつも元気なところや決してめげないところ」が好きだった。つまりそれはのぶのこと。
退院して、マンションのリビングのソファで語らうのぶと嵩。最終回は、ほぼ、のぶと嵩しか出てこない。これまで、出すぎるくらい周囲の人たちがわいわい出てきたが、ここだけはふたりきり。
のぶは「今年の桜は見られないかもしれない」とつぶやく。のぶのモデルの暢はあと3カ月と宣告されて、その後6年も生きたそうだ。
「どんどん溢れてくるがよ。うちのこの体は嵩の愛でいっぱいちや」
結婚してから嵩さんと呼んでいたが、ここでのぶは「嵩」と呼ぶ。
辛抱たまらず、嵩はのぶを抱きしめる。
嵩はのぶに何ができるか聞くと、あの歌を歌ってとのぶはせがむ。
『アンパンマンのマーチ』を歌う嵩に、のぶは嵩がはじめに書いた歌詞のバージョンをねだった。
「たとえ命が終わるとしても」
まるでのぶのことを歌っているようではないか。嵩の胸の痛みが手にとるようにわかった。
「命はいつか終わる。でもそれは、すべての終わりやのうて。受け継がれていく。アンパンマンの顔みたいに。やき、生きることは虚しいことやないがよ」
のぶは達観する。終盤、いいセリフを蘭子(河合優実)が語っていることが多かったが、ここで、のぶが主人公の面目躍如となった。
「うちのこの残りの命、嵩さんにあげるきね」
このセリフは実際、暢が発したもの。暢の命を20年分、もらったやなせたかしは90代まで満身創痍で活躍することになる。彼もたくさん病気になったが、がんばって生き続けた。
やなせたかしの印象的な話を、戸田恵子がインタビューで語っていた。
「新神戸にできたアンパンマンミュージアムのテープカットにご一緒しました。そのときはご病気で、目も見えず足も動かず耳も遠くなっていて、そんな満身創痍の状態にもかかわらず、先生は舞台に出るときは杖を置いていきたいとおっしゃったんです。
私なりの解釈としては、お子さんたちをはじめとしたたくさんのお客様の前に出ていくのに杖をついた姿を見せたくなかったのではないかと思うんですよ。
『じゃあ、私がかっこよくエスコートしていきますね』と私の腕に掴まってもらって、さも腕を組んでいるような感じで舞台に出ていきました。会話もしにくいので先生はトークの段取りもあらかじめしっかり決めていました。この話はいろいろなところでしていますが、話すたびに泣けてきます」
「できるのにやらないことが一番良くない。50%でも100%でも、できる力がある限りマックスやるということ。それを身をもって私に教えてくださったように思います」
いただいた命を精いっぱい生きる。やなせたかしのイズムを描ききったドラマであった。
リビングの背景には犬の置物がたくさん置いてある。モデルのやなせ夫妻は犬を飼っていたそうだ。と思ったら、突如、のぶと嵩も犬を飼いはじめた。
犬からも元気をもらったのか、のぶは5年延命する。
桜が見られないかもと言っていたが、桜並木を走るのぶ。奇跡が起きた。