最後まで気になった『アンパンマンの遺書』のある記述。
嵩の前を元気に走るのぶの場面に、静かに静かに『賜物』がかかる。鎮魂のメロディのように。
劇中で主題歌をかけて盛り上げる手法は連続ドラマにはよくあるが、主題歌を目立たせるのではなく、かすかに背景に流す上品さ。
のぶは子どもたちにアンパンマンの紙芝居を見せている。迎えに来た嵩に子どもが、群がって。『アンパンのマーチ』を歌う。「愛と勇気だけが友達さ」♪
ここで、「時が来たらお返しする命」のターン。
のぶと嵩は緑萌える街路樹を並んで歩く。柳川強演出では何かが飛ぶ。初回は高知の道を無数の虫が飛び、戦場ではタンポポの綿毛が飛び、長屋ではシャボン玉、そして最終回でも何か種子みたいなものが飛んでいた。まるで無数の魂のようだった。舞っていたものは命だったのかなと思う。
戦争とか悲しいことに振り回されてきた人たちが、自分たちなりに幸せでいられる方法を探して、より良く生きる人たちの話だった。
実在する人物のあることないことが描かれ、あれも書いてほしかった、これは違うんじゃないかと様々な感想が飛び交い盛り上がったが、「正義は逆転する」という真理を何度も何度も繰り返してきたところは受け止めたい。何事も信じすぎてはいけない。
『あんぱん』は鎮魂であり、生命賛歌であった。
このドラマによって史実のやなせたかしと妻・暢のことを知ることができてよかった。先述した戸田恵子のやなせたかしの逸話に筆者は感動を覚えた。正直、子ども向けのキャラを作って一財産築いた人というイメージしかなかったのだ。
このドラマでは史実と違うところ、書ききれていなかったことも多々あったが、やなせたかしのイメージを損なうことはさほどなかったと思う(実際はナイーブではあるがそれを表にはそんなに出さなかったのかなと推察する)。
そのなかで、史実的に気になったことは、『アンパンマンの遺書』の「妻以外の女性を愛さなかったといえば嘘になる」「ぼくは自分は不真面目で、冷たいと思う」などという記述。
ヒーローをいかにもヒーローに書くことを好まないやなせの偽悪的な表現だったり、かっこつけだったり、妻一筋の愛妻家になることへの抵抗だったり、話を盛りすぎるクセだったり(話を盛りたがる人なんじゃないかと筆者は想像した)するのかなと思うのだが、そうだとしても、妙に収まりの悪い告白である。
もしも、「やなせたかし最高」と信奉する視聴者たちが、もっとやなせさんのことを書いてほしかったという願いが届き、この記述部分が膨らませられていたらどう思っただろう。ほいたらね。
