無実の罪で投獄され
絞り出された教訓

 次の格言も、今から2000年以上前に書かれたものだ。

「前を見て歩く男は、つまずいて転倒することはないものだ」(「アンクシェションクイの教訓」より)

 これは歩きスマホに対する注意喚起ではない。「先を見て広い視野で物事に対処できる人物は、失敗を避けることができる」という意味である。これまでの人生で何度もつまずいてきた者としては、身に染みて良くわかる言葉だ。もっと早く知っておきたかった。知っておくべきであった。ゆえに読者であるあなたは幸運だ。つまずく前に本記事に出会ったのだから。

 賢者アンクシェションクイは、たくさんの教訓を残した。もしかしたら読者のなかには、彼が話し好きで説教好きの、扱いが面倒くさい老人のように思った方もいよう。確かに「説教臭い」と言われればそうかもしれない。しかし、彼がそれらの教訓を記した際の状況を知れば、彼が心の底から絞り出したこれらの「言葉=格言」が本質的に教訓として受け止められるべきものであることに納得してしまうであろう。

 アンクシェションクイは、これらの言葉を獄中で書いたのである。ただし彼は犯罪者ではなかった。あるとき友人を訪ねた際に王の暗殺を計画しているという話を偶然耳にしてしまうのである。アンクシェションクイはその計画を止めようとするのだが、2人の会話は盗み聞きされており、共謀者とみなされ禁固刑が科せられる(ちなみに友人を含む犯人たちは火炙りの刑に処された)。

 その獄中で彼は幼い息子に向けて、現代人にでも理解できるほどの文体で機知に富んだ教訓を記したのだ。ゆえに誰かに説教話をしたかったわけではなかった。真剣に自分の子供の将来を案じて言葉を残そうとしたのである。もちろんその行間からは、自分をこのような目に遭わせた社会への批判・皮肉は見え隠れするのであるが……。