この格言からは、現代にも通じるような一般論が見出せるが、その一般論が語られていた古代エジプト社会のイメージもよくわかる。つまり古代エジプトは、走り続けている人が立ち止まって座ることが許される社会であり、座り続けてきた人が立ち上がる機会を勧めてくれる社会でもあったのである。現代日本がそうであればよいなと思う。
ビール好きのエジプト人を
戒める言葉は現代にも通ずる
「仕事中に自宅に戻りたいと思うな。昼から自宅でビールを飲みたいと思うな。太らないように贅沢な食事をするな。年を取って太らないように、若いときには食べすぎるな」(「アンクシェションクイの教訓」より)
この格言からは、ビールが身近な存在であったことがよくわかる。ただし「仕事中に自宅に戻りたいと思うな」とか「昼から自宅でビールを飲みたいと思うな」というのは、個人の問題のような気がする。一般論として週末や祝日であれば昼間からビールを飲む贅沢は許されるであろうが、平日は問題だろう。もちろん夜勤の方々や土日が休みではない職種の方々は別である。
古代エジプト人とビールとの関係は切っても切れないため、本書でもこれまでに何度か登場してきたが、「太らないように贅沢な食事をするな」と「年を取って太らないように、若いときには食べすぎるな」は初めての登場である。「太る」=「悪」なのであろうか。一概にそうとも言えない気がする。というのもエジプトのカイロ考古学博物館に行って展示品を見てみると、体格のよい男性像がしばしばあるからである。単純に「太るな」と言っているわけではなく、贅沢を象徴する「飽食」を戒めているということなのかもしれないが、少なくとも最近体重過多の自分への戒めとはしたい。
「昨日の飲みすぎは、今日の渇きを取り除いてはくれないものだ」(「アンクシェションクイの教訓」より)