突如仲間氏は思いもよらぬ行動にでました。赤信号で停まると、黄色い実線(原則として車線変更・追い越し禁止)を越えて、4車線の一番右端の車線へと横断したのです。急ブレーキを踏んだ後続車のクラクションが鳴り響きました。

 それは明らかに道路交通法違反で、あまりにも無謀で危険な運転でした。さらに仲間氏はバイクを降り、エンジンをかけたままバイクを押し、反対車線へと渡り、そのまま夜の闇へと消えていったのです。

 我々の追跡を完全に振り切ろうとした危険を顧みない行動でした。

 探偵は交通ルールを遵守する以上、赤信号を無視して追跡を続けることはできません。

 すぐさま辻岡さんに連絡をしました。「仲間氏の追尾不可能な行動により、見失いました。申し訳ありません」

 辻岡さんは「それほどまでに警戒するとはますます怪しいですね。調査員のみなさんが無事でよかったです。実は事業内容と出資額を見直して納得できるものにはなったので仮契約を交わす予定なのですが、念の為現住所は確認しておきたかったですが、残念です」

諦めるわけにはいかない
周辺調査を続けることに

 しかしプロの探偵として、すぐに諦めるわけにはいかないと思い私は「仲間氏は居酒屋を出た直後から警戒しており、尾行も完全に想定していました。そして振り切りにかかったのは現住所に近くなったからだと思います。焦りのあまりの行動だとすれば、だいぶ近づいてるんだと思います。周辺調査をさせていただけないでしょうか?」

 辻岡さんは了承してくださり、我々は直ちに、最後の目撃地点である交差点周辺から周辺調査を開始しました。

 バイクが向かったであろう東方向の道路、そして周辺の路地裏まで、あらゆる可能性を考慮して捜し回りました。しかしどこにも見当たらず、約1時間後周辺調査を断念しました。

 翌日私は、辻岡さんから了承を得て別の方法での調査に取り掛かりました。手元にある情報から自宅を割り出す探偵独自の情報調査です。仲間氏についての情報は、バイクのナンバープレート・年齢・そして見失った交差点の周辺であろうという予想だけです。名前は偽名の可能性が高く、あてにはできません。

 しかし、この情報こそが真実へ導いてくれたのです。