私はインカムで「仲間氏が前方20メートルでバイク乗車、田中は追いの準備を。宮本、俺を乗せてくれ」

 ここから、尾行の中では特に難易度の高いバイク尾行が始まったのです。

 仲間氏のバイクが新宿通りに出て、西に向けて発進した瞬間、田中のバイクが追尾を開始し、私も横付けされた宮本の車に乗り込み、追尾を開始しました。

 都心の道路は、予測不能な要素が満載です。信号のタイミング、タクシーなど他の車両の流れ、割り込みのような車線変更、信号や横断禁止を無視する歩行者などの要素があり、対象者の動きを予測し、常に最適な距離と位置を保つ必要があります。

 さらにバイクは車の死角に入りやすく、小回りが利くため、追跡は常に神経をすり減らす、高度な技術と集中力を要する作業となります。

 その上、仲間氏の警戒行動はバイク走行中にも見られました。

調査対象者の思わぬ行動
ベテラン探偵でも追えなかったワケ

 仲間氏を追尾する田中からインカムで「頻繁にミラーで後方を確認しています。かなり警戒してます」

 私は答えて「了解、次の交差点を左折しそうだから、曲がったら後方につける、そのタイミングで車の後ろに入って、仲間氏の視界から姿を消してくれ」

 バイクを追いきるために、最後の最後はバイクが絶対に必要になるので、なるべく視界から消えて印象を残さないようにするのです。

 インカムでの短いやり取りで連携を取りながら追い続けると、仲間氏のバイクは甲州街道から環状八号線へと入り、世田谷区方面へと向かいました。

 ここから仲間氏の警戒行動は、さらにエスカレートしていきました。

 走行中、彼は頻繁にバックミラーを覗き込み、後方の様子を執拗に窺っています。時には、車線変更を繰り返したり、急に速度を落として後続車をやり過ごしたり、あるいは何の変哲もない路地で突然停車し、ヘルメット越しに周囲を鋭く警戒する素振りを見せることもありました。

 これは明らかに過剰な警戒行動でした。

 その度に、我々はインカムで状況を共有し、交互に視界から消えたり、信号停止中は道路脇に停車したりしながらなんとか追尾を継続しました。

 追尾を開始して約30分後、環状八号線の大きな交差点に差し掛かる時、仲間氏のバイクは左端の車線を走行しており、1台車を挟んで私が乗る車と田中のバイクが追尾していました。