その後、辻岡さんから「バイク」とメッセージが来ました。どこにバイクを停めているのか、誰かが迎えに来るのかは分かりませんが、宮本と田中に伝え、全員が仲間氏の行動に即応できるように準備しました。

 5分後に仲間氏と、辻岡さんと社員の2人が店から出て来ました。

 彼らは店の前でしばらく談笑した後、仲間氏だけが新宿通りを歩き出しました。

 私はインカムで状況を共有しながら仲間氏の二十数メートル後方で尾行を開始しました。その十数メートル後方を田中がバイクを押しながらついて来ています。さらにその後方から宮本の車が超低速でついて来ます。

 我々は慎重に距離を保ちながら、インカムで常に連携を取りながら、彼の動きを追いました。しかしその道中、仲間氏が見せたある行動に我々の間に微かな、しかし確かな緊張が走りました。

 仲間氏は新宿通り沿いを歩き続けていましたが、200メートルを超えたあたりから、明らかに歩く速度が速くなりました。

 さらに、まるで背後に誰かいないかを確認するかのように、ショーウィンドウに映る自分の姿を一瞥し、その直後、不意に振り返ったのです。その視線は、一瞬、我々のバイクや車を捉えたように見えました。

 プロの調査員にとって、この一瞬の動作は決して見逃せないサインです。対象者が警戒している、あるいは尾行を察知している可能性を示唆する明確な行動でした。

都内ならではの事情も
バイクの尾行の難易度が高い理由

 私はインカムで静かに伝えました。「田中、宮本、対象者に振り返りあり。このまま追うから、宮本は姿を消してくれ。田中は倍の距離を空けて追って来てくれ」

 宮本の車はすぐに左折して、再び新宿通りに戻り、300メートル以上は距離を空けて超低速で、田中は歩道から車道に移り30メートルほどの距離を空けて、仲間氏ではなく私の姿を追う尾行方法に変わりました。

 熟練の調査員は短い指示でも即座に意図を汲み取り適切な対応ができるのです。

 仲間氏の姿を捉えているのは私だけです。絶対に見落とすわけにはいきません。警戒度を考慮して慎重に尾行を続けていると、コインパーキングに駐輪されていた一台のバイクに歩み寄りました。

 仲間氏はヘルメットを装着しバイクに跨りエンジンを始動させました。