「子育てに疲れる」「子どもの将来に不安を感じる」「子どもを愛するよりも完璧な親になることを優先してしまう」「それが間違っているとわかっているのに、他の家族に合わせてしまう」など、子育てに苦悩する親は数多くいます。そんな親たちが考えを変え、行動を変えた育児療法がいま、話題に。アメリカで20年以上親子と向き合ってきた医師による医療現場の専門的な知識をもとにした新刊『ジョンズ・ホプキンス大学児童精神科医が教える 育児の本質』より、実用的で誰もが取り組めるシンプルかつ具体的な子育て法を紹介していきます。

児童精神科医が「お父さんの子育ての悩み・ベスト1」に答えてみたPhoto: Adobe Stock

子どもを主導的に遊ばせる
プライドスキル:P.R.I.D.E

 お父さんたちから、よくこんなことを聞かれます。

「子どもと何をして遊べばいいかわかりません」

 遊びの大切さは理解していて、だからこそ遊んであげたいと思うものの、どうすればいいかわからないと言うのです。お母さん、お父さんまで一緒に遊べたら、子どもにとってこれほど幸せな時間はありません。

 一方で、子どもと遊びながらとにかく教えようとする親たちがいます。せっかくの遊びの時間を有効に使いたいと思うのでしょう。しかし、遊ぶときはただ楽しく遊ぶのがもっとも有効です。ですから、遊びを通して教育しようとするのはやめましょう。

 では、どうやって遊ぶのがいいでしょうか。親子関係の治療に用いられる方法の1つに、親子相互交流療法(Parent-Child Interaction Therapy)があります。この中に子ども主導の遊び方があるのですが、次の英語の頭文字を取って「プライドスキル(P.R.I.D.E)」と呼ばれています。

●Praise(褒める)
●Reflect(繰り返す)
●Imitate(真似る)
●Describe(描写する)
●Enthusiasm(熱中する)

 言い換えれば、子どものすることを褒め、子どもの言うことを繰り返し、子どもの行動を真似し、子どもがしているとおりに描写するのですが、これを熱中して行ないます。

 たとえば、子どもが絵を描いているとしましょう。このとき、「上手に描けたね」と言うのは評価する意味合いを含むため、まずは「絵を描いているね」と行動を描写し、興味と関心を示します

 子どもが「ここに太陽を描いたの」と言ったら、「そこに太陽を描いたの?」と共感を示しながら話を聞きます。これが繰り返しです。こう考えると、とてもシンプルですね。

 次に、「一緒に太陽を描きたいな」などと言って親も真似ます。まれに不安の強い子どもの中には、親がつぶさに見てくるのを嫌がる子もいます。しかし、ほとんどの子は親や大人が自分の話に耳を傾け、一緒にやりたいと真似されることをとても喜びます。なぜなら、いつも自分が大人や親のすることを真似しているからです。そんなお母さんやお父さんに真似されて、少し得意になるのです。

 もし子どもが太陽を緑色で描いたら、それを描写して「太陽が緑だ! さわやかな発想だね」と声をかけます。「太陽は赤やオレンジでしょう」と言うのは教えようとする態度であり、ここでは必要ありません。正しいかどうかを指摘するのではなく、理解し認めてあげてください。編集者は作者になることはできないと言われます。子どもの創作活動を編集しようとするのはやめましょう。

 子どもとの相互作用を望むなら、描写を利用するとスムーズです。子どもが山の絵を描いていたら、「ここに山があるね」と言うだけです。子どもがおもちゃで遊んでいても同じです。たとえば人と恐竜を戦わせていたら、「恐竜が来た! 人と戦っているの?」と、まるで生中継をするように声かけをします。いちいちすべてを中継する必要はありません。本当に楽しんで見ている感じで描写すればいいのです。これならすぐにでも実践できます。

 一日中働いてくたくたになって帰ってきたあと、全力で遊んであげられなくても、エネルギーが枯渇していても、子どもが遊ぶ様子を描写するだけならできそうです。もちろん、余力があれば子どもとの遊びに熱中してあげられたらなおいいでしょう。

 プライドスキルの5つすべてを覚える必要はありません。共感し、傾聴していれば、自然と子どもの言葉や行動を繰り返し、描写できるはずですから。大事なのは、親が自分を見てくれていると子どもが感じられるようにすることです。

(本原稿は、『ジョンズ・ホプキンス大学児童精神科医が教える 育児の本質』からの抜粋です)