スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』。その刊行を記念して、訳者の栗木さつき氏に話をうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「実は仕事がものすごくできない人」の特徴・ワースト1Photo: Adobe Stock

ネガティブ思考は怠惰?

――本書では、「一点集中」は精神衛生にいいという話も出てきました。

栗木さつき氏(以下、栗木):ネガティブ思考にとらわれずに、一点集中で「いま」を生きなさいという話ですよね。同じことをくよくよと悩んで余計な時間を使い続けること自体が、生産性を阻害すると同時に、ある意味で怠惰だと指摘されています。

 この本を訳して、考えても変わらないことを考え続けるのは、時間も無駄ですし、精神的にもよくないことだと再認識しました。著者は次のように言っています。

 過去についてくよくよと考えるのも不安な将来を思い描くのも、無益なだけでなく、怠惰だとすらいえる。そうした行為は、「いま」という瞬間を「ここ」で生きる邪魔をする
 私たちには過去を変えることも、未来を予言することも、他人を意のままに動かすこともできない。ただ、いまという瞬間、シングルタスクに集中し、自分の人生、仕事、周囲で渦巻いている世界を、よりよい方向に向けることだけが可能なのだ。━━『一点集中術』より

 実際、なかなか行動ができない人は、過去の後悔や将来の不安といった、いま考えてもどうにもならないことに、思考のエネルギーを奪われ続けているのだと思います。しかし、仕事にせよなんにせよ、自発的に行動を起こさないかぎり前に進めません。

 過去も他人も変えることはできません。できるのは、いま自分が何を選び、どう動くかだけ。それを先延ばしにしているかぎり、いつまでも「口だけの人」になってしまうのだと、私自身、改めて感じました。

ぜひ集中したいときの方法は?

――私も毎日「一点集中」で過ごしたいとは思っているのですが、まわりにはPCからスマホから集中を阻害するものしかないですよね。栗木さんは集中のためにどんな工夫をされていますか?

栗木:以前、子育てをしていたころは、仕事部屋がなく、食卓の端で作業をしていたので、子どもやその友だちの声がつねに周囲にありました。当時はよくやっていたなと思うのですが、そのころは忙しかったぶん、「15分あったら仕事しよう」とかえって集中できていた気がします。

 いまは子どもが独立して、専用の仕事部屋を持てるようになったのですが、その代わりにSNSなどの誘惑が増えて、逆に気が散っている自覚があります。物理的な環境が整っていても、自分で自分を律するのはなかなか難しいですね。

――なんとしても集中しなくてはというときはどうされていますか?

栗木:集中の最大の原動力になるのは、やはり締め切りです。遠くの締め切りしかなければダラけてしまいそうなので、毎日自分で「この段落までは訳し終えよう」といったノルマを決めて作業しています。

 また、集中が途切れたり煮詰まってきたときは、意識的に席を離れるようにしています。

 そして結構いいのが、外の空を見たり、窓から見える緑を眺めることです。つねにパソコンの画面を見つめている状態から、少しでも遠くを見たり自然に目を向けることで、脳を休ませて、いまの作業や自分の状態を一歩引いた視点から見直すことができます。実際、視線を遠くに移したり自然の緑を見ることは、目の緊張を和らげて集中力の回復につながるとされていて、短時間でも効果を感じます。

(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)