スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』。その刊行を記念して、訳者の栗木さつき氏に話をうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

一度に1つの作業に集中する
――本書で提唱されている「一点集中の原則」について、改めて教えていただけますか?
栗木さつき氏(以下、栗木):一点集中の原則とは、「一度に1つの作業に集中して生産性を上げる」というシンプルな原則です。著者は、これは「もっとも重要なことに注意をもどすために利用できる万能の方法」だと言っています。
本書を読めば、集中力を保ち、周囲の環境を管理する方法がわかるし、あなたの足を引っ張ろうとする厄介な人たちへの対処法も学ぶことができる。
さらに、一度始めたことを最後までなしとげようとする意志ももてるようになる。
「一点集中」を貫けば、濃密で強固な対人関係をはぐくみながら、いっそう成果をあげられるようになるはずだ。――『一点集中術』より
この原則は、仕事にはもちろん、対人関係にも役立つと言っています。
――対人関係で「一点集中」が必要だというのはどういうことでしょうか?
栗木:短い時間でも、相手の目を見て、そのときどきで相手に100%集中することが、非常に大事だというのが著者の主張です。
これは仕事でもオフでも同じで、家族とは毎日なんとなく一緒にいるかもしれないけれど、ただだらだらと過ごすだけでなく、食事のときでもなんでも、ポイントポイントで集中して向き合う時間を持つことで関係が深められると言っています。
本に出てくるエピソードでは、アメリカの元国務長官のヘンリー・キッシンジャーのエピソードが印象に残っています。
とある小さな町にキッシンジャーが講演にやってくるのですが、カバンをなくしたせいで着れるシャツがなくて困っていた。その際、ボランティアの青年が対応してシャツを買ってきたのですが、そのときの青年の感想が書かれています。
何時間も一緒にいても心が通わないときがある一方で、短時間でも相手の目を見て集中することで、信頼関係が深まることもあるんです。
有能な上司はコレをしている
――上司と部下の関係などにも通じる話ですね。
栗木:著者は管理職の人からよく聞く「時間がなくて部下の話を聞けない」というのは言い訳にすぎないと言っています。実際には、たとえ数分でも相手に真正面から集中すると大きな効果があります。ほんの一瞬でも一点集中で聴いてくれれば、人は向き合ってくれたと感じるものです。
いくら忙しくても短時間でも、集中して真剣に向き合ってくれる上司に部下はついてくることが本書を読むとわかります。
本書には反面教師の例も出てきますが、その人はつねに忙しそうにしていて、目の前にいてもこちらを見てないんですよね。相談事には短時間でも切り替えて向き合ってくれる人は相談しやすいですが、話していても忙しいオーラを出されてしまうと、ちょっとやそっとでは相談しにくくなるのだと思います。
相手の話を集中して聴くと、言葉だけでなく、「なにげないしぐさ、口調の変化、ボディランゲージなど」の非言語のシグナルに気づけるようになります。まるで「レントゲン画像」をめくるように、相手の本音や不安を見抜くことにつながると著者は言っています。
家族との会話でも、仕事での打ち合わせでも、「ただ耳に入れる(hear)」のではなく、意識を集中して「聴く(listen)」ことが信頼関係を深める最良の方法だということです。
(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)