「セルフ・プロデュース」「ライフシフト」…
ネーミングに込められた想いを深読み

 人材の流動化が求められる時代、ルールに違反しない早期退職制度なら否定はできない。各社のリストラ施策を批判するのではなく、今回はネーミングを深読みしてみたい。

 これらのネーミングで象徴的なのは、「自己実現」と「主体性」が強調される点だ。「セルフ・プロデュース」は自己演出という意味だし、「キャリアデザイン」は、社員自らの意志で未来を設計する主体的な選択と読める。つまり、企業側から退職を強いられた事情や、退職に追いやる雰囲気などを(表向きは)感じさせない。

 この制度の素案を作ったのも、対外発表したのも、その企業の一社員だろう。人員削減は、一般的にはネガティブに捉えられる実態だ。それを、社員が歩む人生を前向きに、ポジティブな物語の始まりへと転換する試みといえる(※わざと大げさに言っています)。

「ネクストキャリア」「セカンドキャリア」「ニューライフ」といった言葉は、まさにそれを意味しているだろう。「ライフシフト」は、高次の人生に移行するSF小説っぽい感すらある。退職を、過去との決別ではなく未来への新たな一歩としてフレーミングし直す試みか(※これも大げさに言っています)。

 言葉の力は偉大だ。これらのネーミングの退職制度を使った人は、転職活動の面接などの場で、退職の事実を「自身の成長のための前向きな決断でした」などと説明しやすいのかもしれない。あるいは、自己を納得させるのに役立つかもしれない。

 また別の気になる点は、ネーミングの多くが「支援」や類似の単語を含んでいることだ。企業が社員を一方的に切り離すのではなく、社員の新たな挑戦を最後までサポートする「伴走者」であることを示唆している。これが事実なら、認められてもいい側面だと筆者は思う。その社員の長年の貢献に感謝を示し、退職後も良好な関係を維持したいという企業の意図の表れでもある。

 それに今は人手不足の折、50代であっても再び復職(出戻り)もあるかもしれない。企業はそういった新潮流も想定して、早期退職制度を考える必要があるだろう。

 もっとも、法的な観点からもネーミングは極めて重要である。そもそも「希望」退職だ。あくまで社員の自発性が起点になっている。これにより企業は厳格な法的要件や、労働組合との交渉を回避しやすくなるのも事実だろう。退職金を割り増して支給したり、再就職支援をしたりといった手厚い措置を組み合わせる必然が、ここにある。

 早期退職、希望退職は平成の時代に定着した感がある。労使どちらも紛争リスクを最小限に抑えながら、円満な解決を図るための、もはや伝統芸といえるのではないか。それが令和になり、ネーミングの妙もあって「洗練された手法」に進化しているのだろう。