「お金のこと、周りの人より苦手かも……」。そう思ったこと、ありませんか?
この連載では、年間100世帯以上の相談にのっている発達障害専門のFPで自身もADHD当事者である『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』の著者・岩切健一郎氏が、お金について解説します。
発達障害の人も、そうじゃない人にも役立つヒントが満載です。
※現在、正式な診断名は「発達障害」から「神経発達症」へ変更になっていますが、この連載では広く知られている「発達障害」という表現を用います。

先延ばしが原因で、起きた怖い話
世の中には、先延ばしにして良いこともたくさんありますが、お金に関してはおすすめできません。
本当はやらなければいけないことを先延ばしにした結果、大後悔した私自身の話をしましょう。
奨学金の返済を先延ばしにした結果……
20代のころ、奨学金を返済していました。口座振替(口座引き落とし)の設定をするのが面倒だったので、毎回払込用紙を使って奨学金を返していました。
しかし一時期、仕事がうまくいかずお金に困ることがあり、返済が滞ることが度々ありました。その都度、奨学金を貸してくれた団体から催促の電話が入っていました。保証人である両親にも団体から連絡が入ります。
金銭的に苦しかったこともあり、支払いを先延ばしにし続けていました。今思うと本当に申し訳ないのですが、着信もストレスになってしまい、一時期電話を取らない期間もありました。
ある日、衝撃の封筒が届いた…
すると、ある日「必ずお読みください」という封筒が郵便受けに入っていました。書類には「◯◯月◯日 裁判所に出頭するように」と印字されていたのです。
頭の中が真っ白になった私は日本学生支援機構に連絡すると、
「一括返済できないのであれば、
分割返済のために裁判をするので、
◯月◯日の◯時に必ず裁判所に来てください」
と言われました。
指定された日時に裁判所を訪れました。
最低いくらであれば毎月返済できるかを取り決めて書類を作成し、署名をします。自分で申告した返済ができなければ一括返済になることにも同意することになりました。ひと通り書類の記入が終わると、名前を呼ばれ、裁判室に入ります。テレビでよく見る被告人席に通され、最低限の返済額を守ることを誓いました。
まさか自分が……!
返済や連絡を先延ばしにしたことで、裁判を受けることになり、以後、返済が滞ることが許されなくなりました。まさか自分が裁かれる日が来るなんて……。夢にも思っていませんでした。
なぜこんなことが起きたのか?
記憶をたどってみると「口座振替の申し込みが面倒」で起きてしまった出来事なのです。当時は毎月、自分でちゃんと振り込もうという強い気持ちでいました。でも私の場合、意思の力では難しく、どうしても先延ばしになってしまったのです。
意思の力では変えられない
他にも自分の意思でやろうとして失敗してしまった人の話をしましょう。
私に相談に来られたタイミングで、Aさんにはカードローンが30万円ほどありました。カードローンの理由は、生活費の足し。収入を確認すると年収350万円で社宅。家賃もあまりかかっていません。収入と支出のバランスの確認、原因の分析、対策を一緒に考案することが必要だと、私は考えました。
面談の中で、
「その年収であれば、支出を管理することで返していけるはずです。
今後どうすればいいか一緒に考えましょう」
と伝えました。するとAさんは、
「自分の年収であれば、カードローンを返せそうな金額なんですね。
自分で意識してやってみます」
とおっしゃって、その時は終わりました。
その後、Aさんはどうなったか?
そして1年後にAさんから再度連絡をいただきました。
「借入(借金)が180万円を超えて返済が厳しくなってきた。
どうすればいいか一緒に考えて欲しい」
とのこと。収入の多くをローンの返済に充てることになったため、生活が苦しいという相談でした。
生活がギリギリになってからの相談では、正直FPとしては手の打ちようがありません。弁護士を紹介することになりました。
最終的には、親御さんが支払ってくれてどうにかなったとの連絡をいただきました。あの時、「自分で意識してやってみます」と言ったAさんに「いいえ。一緒に対策を練りましょう」と、もっと強くお伝えすべきだったと反省した出来事でした。
「意識してやってみます」という言葉ほどアテにならない
今まで意思の力で実行できなかったことを、今から意思の力で実行できるようになるのは非常に難しいこと。そして意思の力でお金のことを解決しようとするのは非常に危険であること。それを理解していただけると思います。
お金を管理したいと強く思っていてもできないことを、意思や努力で克服することは非常に困難。小麦アレルギーの人に米粉パンを用意するように、「そもそも」のやり方や環境を変えるという視点に切り替えてみることをおすすめします。
(本記事は、『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』から一部抜粋・編集したものです。)