「お金のこと、周りの人より苦手かも……」。そう思ったこと、ありませんか?
「計画的に貯金しよう!」という意思はあるのに、できない。というか、気づくと必要ないモノを買ってしまう……など。こういったお金の困りごとは、あなたが怠けているからではなく、性格のせいでもなく、もしかしたら「脳の仕組み」のせいかもしれません。
この連載では、年間100世帯以上の相談にのっている発達障害専門のFPで自身もADHD当事者である『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』の著者・岩切健一郎氏が、発達障害の人も、そうじゃない人にも役立つヒントをお伝えします。
※現在、正式な診断名は「発達障害」から「神経発達症」へ変更になっていますが、この連載では広く知られている「発達障害」という表現を用います。

「正直、発達障害の人の扱いに困るんですよね」。口では言えないけど、心の底でこう思っている人へ伝えたい4つのことPhoto: Adobe Stock

身近に発達障害の人がいたら知っておいて欲しいこと

 当事者として、周りの人が知っておいてくれたら嬉しいことを4つに分けてまとめました。
 ひとつずつお話ししたいと思います。

①発達障害は脳の特性

 発達障害とは生まれつきの脳の特性で、脳神経の仕組みや遺伝、環境など様々な要因が影響した結果、生活で困難を抱えている状態です。特にADHDは、神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)の働きに違いがあると言われています。

 これは本人の努力でコントロールできるものではありません。「集中しよう」「気をつけよう」と思っても、それがうまくいかないのは脳の働きによるものなのです。

・じっとしていられない
・衝動性が強い
・時間の感覚がつかめない
・集中できない
・過集中してしまう
・相手の気持ちがわからない
・数字が読めない
・疲れやすい
・感覚が過敏である

 など、脳の特性による影響はいろいろあります。
 できないことや苦手なことは、治したほうがいいんじゃないかと思うかもしれませんが、重要なのは「どうしたら日々を少しでも生きやすくできるか」という視点です。

 そして何より伝えたいのは、多くの当事者は、自分の苦手にちゃんと向き合おうとしていることです。「どうしたらうまくいくか」をいつも考えながら、それぞれのやり方で社会とつながろうとしています。

 違いがあることを知り、それを責めずに、尊重しながら関わっていただけると嬉しいです。

②発達障害であっても成長していく

 発達障害は生まれつきの脳の特性で、なくなるものではないとお伝えしましたが、まったく成長しないわけではありません。ただ、特定の分野は人よりも遅く、何回失敗しても覚えるまでに時間がかかります。ですから、
「この人には、このタスクは一生できない」
 と決めつけて接するのではなく、
「この人は、このタスクは苦手なようだ。本人の労力も大きいし、時間もかかるからサポートしよう」
 という関わり方をしてもらえると嬉しいです。

 経営者にADHDやASDの人が多いと言われるように、環境次第では思わぬ力を発揮することもあります。ゆっくり見守ってもらえるといいなと思います。

 しかしお金に関しては、例えば返済できない高額なローンを組む……といった取り返しのつかない失敗をしてからでは遅いので、フォローは手厚めにしてもらえると嬉しいです。

③発達障害の人は、つま先立ちで生活しているようなもの

「発達障害の人が生活するのってどんな感じですか?」と聞かれたら、私は「つま先立ちで生活しているようなもの」と伝えています。

 発達障害の人の中には、上手に社会に適応できているように見える人もいます。しかしそういった場合、本人は常に集中してエネルギーを使いまくっていることが少なくありません。ですから「つま先立ち」と表現しています。

 つま先立ちって、大体の人ができると思います。頑張れば続けることもできます。でも頑張り続けるのはとても大変です。つま先立ちを強制させられると、足がつることもあります。これがうつ病や適応障害といった二次障害に該当します。ある程度は頑張れても、継続は難しく、頑張り続けなければならない状況はやがて心身に影響を及ぼします

 ですから、ずっとつま先立ちをしなくても本人が生活しやすいように、厚底の靴を準備したり、安全な足場を作ったりすることがより生きやすくなるためのサポート、支援だと考えています。

 身近にいる発達障害の人が上手に生活を送っているように見えても、全力で頑張った結果、やっと普通の日常生活が送れているだけかもしれません。
 問題なく生活しているように見えるあの人も、実は一生懸命、踏ん張りながら日々を過ごしているかもしれません。
 そういった事情も知っておいていただけると嬉しいです。

④ADHDの注意散漫は、お腹が痛い時をイメージしてみて

 ADHDの特性のひとつに「注意散漫」があります。ひとつのことに注意を向け続けるのが苦手だったり、幅広く観察して行動するのが苦手だったりする特性です。

 ADHDではない人にADHDの注意力のなさを理解してもらうために「お腹が痛い時を想像してください」とお伝えしています。もちろん、頭が痛い時、歯が痛い時でも構いません。

 お腹が痛い時はそのことばかりに意識が向いて、部屋の電気を消し忘れたり、必要なモノを買い忘れたりしませんか? 常にそのぐらいの注意力なのがADHDだと思ってください。
 本人の意思とは関係なくそういう状態である、ということを理解していると、接し方も変わってくると思います

 いかがでしょうか?
 発達障害の人に対する見方が、少しでも変わったら嬉しいです。

(本記事は、『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』から一部抜粋・編集したものです。)