もし光源氏がドラッカーを読んでいたら――。
想像するだけで少し愉快で、でもなぜか妙に気になる。
今年、没後20年を迎えるピーター・F・ドラッカーのマネジメント論は、リーダーが抱える悩みを今も鮮やかに解きほぐしてくれます。
「難しそうだから避けてきた」という人にこそ届いてほしいストーリー仕立てで学べる新しいドラッカー入門、『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』がついに刊行です。
本記事では、著者の吉田麻子氏にドラッカーの魅力を伺いました。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 吉田瑞希)

【あなたの職場は?】「凡人を潰す組織」と「凡人が活きる組織」の決定的な差Photo: Adobe Stock

「凡人をして非凡なことをなさしめる」

――著書『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』では、頻繁に「凡人をして非凡なことをなさしめる」という言葉が出てきますね。これは、どういう意味でしょうか。

吉田麻子(以下、吉田):この言葉はドラッカーの『現代の経営』の『第13章 組織の文化』に書かれています。

ドラッカーはこの章で、組織に正しい文化を生み出すためのことを述べているのですが章の冒頭には先ほどの「凡人をして非凡なことをなさしめる」というイギリスの経済学者ウィリアム・ベヴァリッジの言葉を紹介したうえでこのように行っています。

「優れた組織の文化は人の卓越性を発揮させる。卓越性を見出したならば、それを認め、助け、報いる。そして他の人の仕事に貢献するよう導く。したがって優れた文化は、人の強み、すなわちできないことではなく、できることに焦点を合わせる。そして組織全体の能力と仕事ぶりの絶えざる向上をもたらす」

さらに、

「優れた組織の文化は、昨日の優れた仕事を今日の当然の仕事に、昨日の卓越した仕事を今日の並みの仕事に変える」

とも記されています。

優れた文化を築く「5つの行動規範」

――つまり、優れた組織は働く人の「できないこと」ではなく、「できること」に焦点を当てているということですね。では、そのような文化をつくるには、どのような基準が必要になるのでしょうか。

吉田:ドラッカーは、優れた文化を実現するためには「行動規範」が欠かせないとし、次の5つを示しています。

「優れた仕事を求めること。劣った仕事や平凡な仕事を認めないこと。

仕事それ自体が働きがいのあるものであること。昇進のための階段ではないこと。

昇進は合理的かつ公正であること。

個人に関わる重要な決定については、それを行う者の権限を明記した基準が存在すること。上訴の道があること。

人事においては、真摯さを絶対の条件とすること。かつそれはすでに身につけているべきものであって、後日身につければよいというものではないことを明確にすること」

現代の私たちが実践するには?

――では、現代の私たちがこの行動規範を実践するにはどうすればよいのでしょうか。

吉田:以下のようなアクションプランが考えられると思います。

「強みに光をあてる」
弱みを直すよりも、その人だけが持つ資質に焦点を合わせる。本書の中の光源氏が楽人(がくにん)の音を認めて称えたように、まずはその人の輝きを見つけることから始まります。

「高い山を示す」
なすべきことを明確にし、高い基準を掲げる。昨日の卓越を今日の標準に変える、そんな目標を共に描くことです。

「目標を立てる力を育む」
成果は偶然ではなく、方向づけられた努力から生まれます。自ら目標を定め、それを成し遂げる力を評価することが、成長の土台になります。

「公平な天秤を持つ」
評価は情に流されず、目標に対する貢献度で測る。納得できる明確な基準を示し、誰もが見える形で公正を保つことが求められます。

「基準を公開する」
評価や判断は透明性をもって行う。そこにこそ信頼が生まれます。

「真摯さを体現する」
リーダーの最も大切な資質は真摯さです。真摯さを欠けば、どれほど知的で有能でも危うい。逆に、真摯さがあれば組織の文化そのものが信頼に支えられていきます。

リーダーがまず取り組むべきこと

――最後に、リーダーが最初に行うべき一歩は何でしょうか。

吉田:それは「強みに光を当てること」です。弱みではなく、できることに焦点を合わせ、そこから卓越性を引き出していく。その積み重ねが組織の文化を形づくり、やがては凡人をして非凡なことをなさしめる力になるのだと思います。

まずは光を当てよ。そこからすべてが始まるのかもしれませんね。