
日本の高齢者データが示す
室内温度と抑うつ症状の関連性
住環境は高齢者の心の健康にどのような影響を与えるのだろうか。今回、室内の寒さや暑さを十分に防げない住宅に暮らす高齢者ほど、抑うつ症状を抱える割合が高いことが示された。
温度調節の難しい住宅に住む高齢者では、抑うつ症状のリスクが1.57倍に上ることが明らかになったという。研究は、東北大学医学部の岩田真歩氏、同大学歯学イノベーションリエゾンセンターデータサイエンス部門の竹内研時氏らによるもので、詳細は8月22日に「Scientific Reports」に掲載された。
日本では室内の温熱環境が深刻な課題となっている。四季のある日本だが、既存住宅の約39%は断熱されておらず、暖房も居間や寝室に限った断続的な使用が一般的で、欧米諸国の全館連続暖房の1/4程度のエネルギーしか使われていない。
そのため冬季にWHO推奨の最低室温18℃を満たす住宅は10%未満で、異常な室内温度は心身に悪影響を与え、生活の質(QoL)を低下させることも報告されている。夏季も断熱不足と気候変動による室内の高温が問題化しており、2024年には熱中症で救急搬送された約9万人のうち、住宅内で発生したケースが約38%を占めた。
日本は2007年以降超高齢社会であり、高齢者は自宅で過ごす時間が長く、抑うつ症状が認知症や虚弱リスクを高めることを踏まえ、特に自立高齢者における室内の寒さ・暑さと抑うつの関連を検討する必要がある。このような背景から、著者らは自立高齢者における室内温度の知覚と抑うつ症状との関連を検証した。