
島根怪談ツアー・清光院
三之丞(板垣李光人)だった。
が、すぐに「ごめんね無理無理」と撤回。
また工場に来ていた三之丞。
兄の氏松(安田啓人)に「おまえは座敷童(わらし)か」と嫌みを言われる。
「いえ違いますが」
「わかっとる」
なんだろう、この会話。人によってはこの手のノリが受け入れられない人もいそうである。
筆者はこういうわかっていることをわざわざ言う虚しさを愛でる感じが好き。
氏松といっしょにやって来た傅(堤真一)は今日も三之丞には目もくれず、女子工員のことばかり気にしていて、トキをランデブーに誘う。
ランデブーとはあいびきのこと。叔父様の冗談なのだろうけれど、「座敷童」と同じくおもしろいのかそうでもないのか困惑するセリフ。令和のいまだったら、ややハラスメントな気がする。親戚だからいいのかもしれないけれど。
行先は清光院。ここから、八重垣神社に続いて島根・小泉八雲ゆかりツアーシリーズ。
急な階段を登るトキと傅。階段でうわーってつまずいたときの高石あかりのリアクションが本当っぽかった。
清光院とは松風の怪談で有名な場所。相撲力士と恋に落ちた女性・松風が、横恋慕された侍に斬り殺された場所。斬られて、命からがら階段を上がってお堂に逃げ込もうとしたが命尽きて……という悲劇。
たぶん、侍に付きまとわれて斬られて逃げるところがハラハラするところ。
トキはそうとは知らず、階段を登ってきたのだ。
怪談の舞台と知って、トキはお堂のなかをのぞいて「おぞましい」「おる、わかるわかる」「おった」と大はしゃぎ。松野家に相撲の絵がちょいちょい出てくる(第1話の紙相撲や第2話の襖に前にある力士の絵)のは「松風」の伏線だったのか。
「おるか」と傅はあきれ顔。
立入禁止の柵を超えて奥に入ると、血の跡が。ここで謡曲「松風」を謡うと幽霊が出るという伝説があった。謡曲「松風」は松風と村雨ふたりの幽霊のお話だ。
「怪談とはこわいだけじゃなく、さみしいもののよう」
傅がしんみりと言う。
島根観光に行きたくさせるうえ、怪談の本質について語る。この回は重要回。
そこへ、風がざわっと吹いて、トキは思わず傅にしがみつく。
「最高に楽しいです」と怖いことを楽しんでいるトキ。
「これはおトキを元気づけるためのランデブーじゃからな」と傅は微笑む。
トキと傅の仲の良さが気にかかる。
ところで、ドラマのなかに、観光したくさせる場所を出すのは、大河ドラマでよくある手法。
演出の村橋直樹がチーフディレクターをやっていた『どうする家康』(2023年)は劇中出てきた場所やアイテムが実際見に行けるものであることが多かった。
大河はドラマのあとに、ゆかりの地の紹介コーナーは付いている。それで観光につながって、ドラマと地方都市とのいい関係が生まれるようになっている。
朝ドラも本来そういうものだったが、『おむすび』の福岡、『あんぱん』の高知と物語と密接で実際に見に行ってみたくなる場所が少なかった。『ばけばけ』は観光客誘致ドラマとしても大河的である。
清光院は明治12年(1879年)には島根県議会の会場にもなった由緒あるお寺なのだ。