
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年半続けてきた著者による「読んだらもっとドラマが見たくなる」連載です。本日は、第5回(2025年10月3日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)
高石あかり、登場
明治19年(1886年)、トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)は18歳になった。
いつもの朝ドラのように子役の福地美晴が良かったので、わずか4回で退場はちょっと惜しい。
でも、それ以上に高石あかりの存在感があって、たちまち魅了されてしまった。
18歳のトキは傅(堤真一)が作った織物工場で働いている。ここで働いている女性たちの会話がなかなかの破壊力。
「生きちょっていいことあった?」
「ええことひとつもない」
「機(はた)織って麦食べて借金返す毎日」
そんな生活を10年近くも過ごしてきたのか。
トキは最近よかったことが「金縛り」で、娯楽が金縛りや幽霊の夢を見てうなされることだと「それくらいいいことがない」と平然と語る。想像を絶する生活である。
高石あかりの達観した瞳は彼女の代表作『ベイビーわるきゅーれ』シリーズを思い出す。殺し屋しかできる仕事がない若者たちが、淡々と殺しを請け負っている感じと、トキが金縛りを娯楽と捉えている感じが少し似ている気がする。
ほかに選択肢がなく、できることをその環境で続けていると当たり前になっていく。やや心が弛緩したような感じ、それでも肉体は生き続け、存外丈夫であることが高石あかりからはにじむ。
主題歌の「毎日難儀なことばかり」「日に日に世界が悪くなる」というようなネガティブワードを聞いているうちにそういうものだと受け入れてしまう。むしろこういう歌も娯楽として受け止める。それでいいのか。そうするしかないのか。
希望のない若い女性労働者たちに、傅がおやつにとカステラを持ってきた。『大奥』や『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』を見ているとカステラ=毒入りと思ってしまうが――。