診察室では見抜けない本当にいい医者の条件とは写真はイメージです Photo:PIXTA

小学校の健康診断で、児童の脱衣が「セクハラだ」と言われる昨今。しかし、その正義は本当に子どもを守っているのだろうか?過剰なコンプライアンスに医療が潰される日は、確実に近づいてきている。※本稿は、里見清一『患者と目を合わせない医者たち』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。

触診をセクハラと言われたら
診察もまともにできない

 私の病院の外来診察室には、患者さんが待合から出入りするドアの反対側に、職員用の通路への出入口がある。ここのドアを開けておくべきか閉めておくべきかが議論になった。

 プライバシーへの配慮からすると閉めた方が良いが、一方でそうすると患者と医者が密室で2人きりになり、たとえば私が若い女性患者を診察する時など、あらぬ疑いをかけられかねない。

 折衷案として、ドアは開け、そこにカーテンを吊って「閉めて」おく、となった。

 大袈裟に言うと、ここでは「透明性」と「プライバシー」という、現代の2大正義が衝突している。アメリカの正義と中国の正義、なんて話を持ち出すまでもなく、「正義」は1つではない。

 児童生徒に対して行う学校健診にはいくつかの項目があるが、そのうち心臓の聴診や脊柱の診察(側彎症のチェックなど)は、上半身を脱衣してもらわないとまともにできない。

 だが最近は保護者側から、肌着の着用を求める声が強く、学校はそれに抗えない。日本医師会の理事さんも定例代議員会で、「現時点では脱衣について統一した見解を示すのは難しい」と話したそうだ。

 一方で見落としによって学校医が訴えられた事例の指摘もある。