
米著名投資家、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイが株式を取得したことで世界的に関心を集めた日本の総合商社。その独自のビジネスモデルには、ハーバードビジネススクールの教員たちも注目している。5大商社の一つ、三井物産をテーマに教材を執筆した同校のラモン・カザダスス=マサネル教授に、総合商社の強みや三井物産の戦略の特長、同社の事例から学生たちに学んでほしいことなどについて話を聞いた。(取材・構成/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
ハーバードの教員たちが今
総合商社に注目する理由とは?
佐藤智恵 2025年に入ってから、日本を代表する総合商社、伊藤忠商事と三井物産の事例を取り上げた教材(ケース)が、相次いで出版されました。なぜ今、ハーバードビジネススクールの教員の間で総合商社が注目されているのでしょうか。
ラモン・カザダスス=マサネル 「総合商社」のビジネスモデルが世界的な関心を集める大きなきっかけとなったのは、2019年、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイが5大商社(三菱商事、伊藤忠商事、三井物産、丸紅、住友商事)の株式を取得したことです。
私自身が「総合商社」に興味を持ったきっかけも、それまで日本企業の株をほとんど持っていなかったウォーレン・バフェット氏が5大商社のどこに魅力を感じて投資したのだろうか、と疑問に思ったからでした。
そこで企業戦略の観点から調べてみると、「総合商社」のビジネスモデルが極めて独創的であることがわかりました。
商社の事業領域は資源・エネルギー、金属資源、食品、化学品、自動車、インフラ、ヘルスケア、金融など多岐にわたります。また事業拠点も世界各国にあり、バリューチェーンの観点から見ても、川中のビジネスもあれば、川上、川下のビジネスもあり、川上から川下まで一気通貫で押さえているビジネスもあります。
このようなビジネスモデルを持つ総合商社は、プライベートエクイティーでもなければ、貿易会社でもなく、伝統的なコングロマリットでもありません。日本発祥の独自のビジネスモデルです。
これだけ多種多様なビジネスを展開している総合商社の競争優位性はどこにあるのか。一見、何の関連もないビジネスの寄せ集めに見える企業集団がどのようにシナジーを創出しているのか。さらには、どのようにして長年、継続的に利益を生み出してきたのか――こうした点を企業戦略の観点から研究してみたいと思いました。
佐藤 そもそも、なぜこのような日本独自のビジネスモデルが生まれたのでしょうか。また5大商社はいずれも長寿企業ですが、なぜ現在も持続的に成長し続けているのでしょうか。