現代の子どもたちは
多くのストレスを抱えている

 また「頑張れ」という言葉も、あまり言わないようにしていますね。これは弟子だけでなく、自分の子どもに対しても同じです。

 学校、習いごと、SNSや友達との距離感……現代の子どもたちは、私たちが子どもの時代より多くのストレスを抱えているのではないでしょうか。大人が思っている以上に頑張っているはずで、少しの余裕もないほど気持ちが張り詰めていることもあると思います。

 こちらが励ますつもりで口にした「頑張れ」という言葉で、かえってその気持ちが爆発してしまうことも起こり得るでしょう。子どもたちが「頑張るぞ!おー!」というテンションでいる時は、「その調子で頑張れ」と軽く言うことはありますけどね。

 対局前も「頑張って勝て」とは言いません。

「勝て」と言われて勝てたら苦労しないですし(笑)、当たり前ですが将棋なら2人が対戦すればどちらか1人は負けます。全員が勝つことはできません。

取り返せないような
失敗や負けというものはない

 また奨励会では厳しい年齢制限があり、26歳までにプロである四段に昇段できなければ退会となります。そもそも奨励会に入るのも県代表レベルの実力がなければ難しいのですが、奨励会に入っても四段にたどりつく確率は2割を切っているのです。

 つまり、ほとんどの人が棋士になれない、成功できない。プロを目指す若い人は、そんな世界を承知の上で入ってくるのです。

 かといって「棋士になれないこと」が、「人生の失敗」ではありません。社会人になって他分野で活躍している弟子が大勢います。彼らにとってプロを目指して将棋に取り組んでいた時期が、いい経験になっているようです。それに今は社会人になってからプロを目指せる棋士編入試験もあります。

 ですからある対局で負けて何かが手に入らなかったり、失ってしまったりすることはあっても、取り返せないような失敗や負けというものはないのではないでしょうか。これは将棋に限らず、一般的な進学や就職など、人生の山場でも同じだと思います。

 それでは私が弟子の大一番の前に、どういう言葉がけをしているのか。