たしかに水泳やピアノのようなものは習わないと身につかないので、習わせる意味はあるのかもしれません。しかし、それらについて英才教育をしたからオリンピック選手や一流ピアニストになれるわけではないのはわかりきったことです。ほとんどの人にとっては、よくて趣味、あるいは幼い頃の思い出くらいにしかなりません。

 早期天才教育のようなものに意味を見出す人もいるようですが、おそらくほとんど意味がないと思います。

コホート研究でわかった
幼い頃は「褒めて育てる」が正解

 このあたりのことについて研究しているのが小泉英明さん(日立製作所名誉フェロー)です。彼が取り組んでいるのは、「コホート研究」と呼ばれるものです。

 一般的に子どもの成長を調べる際に、よく採用されるのは、一定数の小学校一年生と五年生の知能などを比較する、といったやり方です。しかし、このやり方では一人ひとりの子どもがどのように成長するのかはわかりません。あくまでも「一年生の平均」と「五年生の平均」を比べて、「平均的な成長のスピード」がわかるだけなのです。だいたいの一年生はこのくらいの能力で、だいたいの五年生はこのくらいの能力だから四年間でこのくらい成長するのが一般的、ということです。

 一方、コホート研究は、同じ人間を長期間追跡して見るという方法です。これによって、何か起きたときに、その前にあったこととの関係を見ることができます。A君という子どもの人生を丁寧に見ていき、彼が五年生になるまでに経験したこと、学んだことを押さえながら、その成長を見る。

 そうすることで、具体的にどのようなことがその子どもの成長に影響を与えているのかがわかってくるのです。

 ただし、A君一人を見ても意味がありません。統計的に意味があるようなデータを取るには数千人単位の人を対象に長期間調査をしなければなりません。また、事前に何を測るのかなども細かく決めておく必要があります。

 手間も予算もかかるこの研究に、小泉さんは長年取り組んでいます。