コロナ後に復活したインバウンド需要は、円安を追い風に活況を呈している。観光地には海外からの観光客が押し寄せ、深刻化するオーバーツーリズムへの対策が急務となっている。コロナ禍で大打撃を受けたホテル・旅館だが、需要の急回復で息を吹き返し、ビジネスチャンスを求めて新たに会社を設立する動きも活発化している。一方で、需要が戻ったことで地域格差が露わになる皮肉な状況も生まれている。インバウンドの恩恵に預かれないまま、利用者の行動様式の変化に取り残されたホテル・旅館が浮き彫りになり、勝ち組・負け組の明暗が分かれている。(東京商工リサーチ情報部 増田和史)
客室単価1万6000円超え
都心部や観光地で好調続く
東京商工リサーチの調査で、主要な上場ホテル15ブランドの平均客室単価は1万6679円(2025年3月期、前年同期比12.6%増)と上昇が続いている。15ブランドすべて前年同期の客室単価を上回り、コロナ禍で人流が制限された2021年同期の7755円から、4年で2倍以上に上昇した。
こうしたホテルの多くは集客の見込める繁華街やビジネス街に立地する。稼働率は15ブランドすべて70%を超え、このうち、9ブランドは80%以上の稼働率を誇る。

活況を背景に宿泊業への新規参入の勢いも増している。2024年に新しく設立された法人(新設法人)のうち、業種別の最大の増加率は宿泊業で前年比33.4%増の1388社だった。コロナ禍後期の2022年は同1.1%減と微減に沈んだが、コロナ収束やインバウンドの回復で事業環境が好転し、2023年の同46.8%増に続いて大幅に増加した。
2024年の宿泊業の新設法人の最多は東京の395社。以下、大阪(185社)、北海道(74社)、京都(73社)、長野(64社)、千葉(52社)、沖縄(50社)、神奈川(48社)、福岡(47社)と続き、上位9都道府県で全体の7割を占めた。
いずれも大都市や人気観光地を抱え、右肩上がりのインバウンド需要が見込める地域だ。円安に下支えされて2025年も宿泊業の市場は回復・拡大の道を突き進んでいる。