「怪談落語牡丹燈籠」に邪魔される
車夫の銀二郎が颯爽(さっそう)と現れた。
トキを人力車に乗せて、その場を走り去る。
「行ったら会えるような気がして」なんて以心伝心か。
愛する人の引っ張る人力車に乗って東京を駆ける。夢のような体験。ひととき東京を楽しむふたり。おまんじゅうを食べたりお参りしたり。
さぼっていいのか銀二郎? と思わなくもないが、銀二郎に限っては視聴者はあたたかく見守るだろう。
清光院以来の久しぶりのランデブーを満喫。
「また行きましょうランデブーに」
「はいまた」
楽しかったはずなのにトキの顔はなんだか浮かない。
「私、銀二郎さんと夫婦ふたりで東京に……」と言いかけたとき、客引きに割り込まれ、チラシを手渡された。「怪談落語 牡丹燈籠(ぼたんどうろう)」。ここで頭をかいて、いいところだったのに邪魔が入ったという感情を思わせる寛一郎。
銀二郎が東京ではやっていると言っていたものだ。給料が入ったら聞きに行こうと言って銀二郎は人力車を引っ張り仕事に戻っていった。
怪談「牡丹燈籠」は、幽霊・お露が恋焦がれた新三郎を、夜ごと牡丹燈籠を提げて訪ねてくる物語。新三郎はお露の霊に取り憑かれ衰弱していく。ここまでは、「耳なし芳一」などと同じ、幽霊に取り憑かれた人が果たして助かるか? とハラハラする展開。でもこれは、初代三遊亭圓朝による長編落語の一部で、お露と新三郎の顛末の後日談が紡がれていく。
お露の父・平左衛門と忠臣・孝助、希代の悪女・お国と間男・源次郎、強欲な町人夫婦・伴蔵とお峰……とたくさんの登場人物が入れ代わり立ち代わり登場し、渦巻く欲望、因果応報が20年もの長きにわたって描かれる。
壮大な敵討ちもあったりして、トキたちがこれまで楽しんできた素朴な怪談とは違い、いろいろな趣向が凝らされたエンターテインメント大作だ。庶民が語り継いできた怪談の進化系のようなものがはやっているのは、やはり東京が最先端であるからだ。
はたして、ふたりはいつか牡丹燈籠を楽しむことができるのか。