新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は、本書の核となる一流になるまでの道のりを、『EXPERT』から抜粋・一部変更してお届けします。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)

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一流の思考をたどる一冊

この本は、何も知らない状態から、生涯をかけて得た知恵を後進に伝える域に達するまでの道のりを描いている。そうなるまでに何年もかかると知っていれば、数か月うまくいかないぐらいで諦めることは減るだろう。道は平坦ではない。長く続く退屈、先が見えないもどかしさ、まったく前に進まない足踏みの時間、すべてを投げ出したくなるような瞬間もある。そんなとき、一枚の地図が助けになるかもしれない。地図があっても雨風がなくなるわけではないが、少なくとも路頭に迷うことはなくなる。

一夜にして達人になれるわけではない。長い時間と多大な努力が必要だ。それなくして熟達はない。だが、どれだけの時間と努力が必要なのか? この問いに答えはない。それは人によって違う。次の章から、道を極めた人びとを紹介し、すべての人に共通する経験の核を読み解いていくことにする。いくつかのストーリーはスキルに焦点を当てているが、それ以上に重要なのは、彼らの思考の変化と、その過程で得た自己認識だ。

「熟達」は捉えどころがなく、定義は難しい。「到達した」と明確に言える瞬間があるわけでもない。いつまでも接近し続けるだけで、ある面で前進したかと思えば、別の面では後ずさりする。むしろそれが熟達に至る道の特徴だ。現状に満足せず、もっとできるはずだと感じている人こそが達人だ。

達人はじっとしていることができない。流れに逆らってボートを漕いでいるようなもので、前進しなければ後退する。どこまで進んでも、そこまでの成果に誇りを持つことはあっても、これで完成した、最高の状態に達したと感じることはない。動き続け、エネルギーを注ぎ続けなければ、停滞してしまうのが達人なのだ。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』の抜粋記事です。)