日本の公的債務残高/GDP比の
2020年から24年にかけての変化幅

財政健全化の真の敵は、金利のある世界ではなく、制御不能なインフレだ

 日本経済はインフレの世界に突入した。これはすなわち、「金利のある世界」への突入を想像させる。しかし、金利上昇に伴う利払い費の増加を通じて、財政の持続可能性が低下すると結論付けるのは早計だ。

 財政の健全性を公的債務残高/GDP(国内総生産)比で評価するならば、名目金利と名目GDP成長率の関係を見なければならない。名目金利が上昇しても、それがGDPデフレーターの上昇率を下回る限り、財政状況はむしろ健全化するからだ。

 日本で起きているのは、まさにこの現象である。名目金利が多少上昇したとはいえ、インフレ率や名目GDPの伸びには到底及ばない。事実、日本の公的債務残高/GDP比は2020年から24年の間に、258.4%から236.7%へと顕著に低下した。

 この間、ストック指標である公的債務残高/GDP比だけでなく、フロー指標である財政赤字/GDP比も、顕著に低下している。

 一般的に、名目GDP成長率に対する歳出・歳入の弾力性はいずれも1と考えられがちだが、繰越欠損金などの存在により、歳入の弾力性は1より大きく、予算の要求水準の制約から歳出の弾力性は1より小さくなることが多い。

 こうした状況下では、インフレの加速ペースを名目金利の上昇ペースが上回るまでの間、いわば「インフレタックス」によって財政状況は改善する。その裏側で、民間部門は実質ベースで財政緊縮を受ける。

 問題はその後だ。諸外国がそうであるように、名目金利を名目GDP成長率より上回る水準まで引き上げなければならない局面、すなわち、2%を大幅に上回るインフレ率が常態化した場合、財政は破綻に向かって突き進むことになる。

 そして日本でも既に、2%を明確に上回るインフレ率が常態化しているように見受けられる。結局のところ、日本における財政懸念は、「金利のある世界」ではなく、「抑制不能なインフレ」の世界でこそ顕在化すると考えるべきだろう。

(みずほ証券エクイティ調査部 チーフエコノミスト 小林俊介)