つまり被害が広範に及ぶ核兵器は、大量虐殺になることが怖くて米国は使えない、と敵に思われてしまうので、かえって抑止にならないと指摘している。

 特に注目すべきは、国民には説明されないこの米議会諮問委での突っ込んだやり取りに、両政府がその後に「日米同盟の抑止力」を追求するという路線の萌芽がみられることだ。

 メモからは、オバマが掲げる「核兵器のない世界」への懸念が、特に中国の台頭との関係で見てとれる。

 3枚にわたり日本政府の立場を述べる活字の部分の最後で、「米国がロシアと核削減交渉をする際、中国の核軍備拡張と近代化に常に留意すべきだ」と強調している。

国民に真実を隠したまま
密室で進んだ日米協議

「核兵器のない世界」を掲げた大統領オバマが現れたことで、日本がかえって中国への脅威認識を強めて米国の核の傘への依存を深め、日本は核の傘を支えるべく防衛力強化を進めた。

 この「日米同盟の抑止力」構築の経緯を、2009年に米議会諮問委に日本政府が示したメモを起点にたどってきた。

 この路線を諮問委での議論から牽引した秋葉(編集部注/秋葉剛男。駐米公使。日米協議に日本政府を代表して出席した)は、2025年1月に国家安全保障局長を退く際、「国民のご理解、ご協力が安全保障分野で非常に深まったことが大きな成果ではなかったか」と記者団に語った。

 だがその原点であるこのメモについて、日本政府は「国民のご理解、ご協力」を得るために語ることはいまだにない。

 核大国米ソが対峙した冷戦期に、日本政府は米国の核の傘に頼りながら国民に実態を語らず、後に公開された外交文書に基づく検証で密約という背信行為として批判されるに至った。そこから一体何を学んだのだろうか。

「核の傘」は本当に機能するのか
敵国は攻撃を思いとどまってくれるのか

 冷戦に由来する米国の核の傘による同盟国への拡大抑止には、2つの変数がつきまとう。

 同盟国への「安心供与」、つまり米国が守ってくれるという信頼を保てるのかということと、敵国がどう受け止めてどう動くのかという「敵側の認識」だ。