貿易赤字交渉で極秘に交わされたサイドレター写真はイメージです Photo:PIXTA

大統領に復帰したドナルド・トランプの立ち回りには、既視感がある。関税引き上げや数値目標を突きつけるやり方は、かつて絶頂期の日本も経験したものだ。1980年代、日米摩擦の焦点となったのは半導体。貿易赤字交渉で極秘に交わされたサイドレター(密約)からわかる、ニッポン半導体衰退の原因とは?※本稿は、藤田直央『極秘文書が明かす戦後日本外交 歴代首相の政治決断に迫る』(朝日新聞出版)一部を抜粋・編集したものです。

「米国半導体シェア20%」の
サイドレターはあったのか?

 一般にサイドレターとは、ビジネスなどの契約書を補完する文書のことだ。外交交渉でも政府間の合意文書を補完して作られることがあり、本体が公表されてもサイドレターが公表されないことがある。

 1986年に日米両政府が協議の末に半導体協定をまとめた際、サイドレターも作られ、そこで日本市場での外資系半導体のシェアを増やそうと「5年間で20%に」という数値に言及した――。そんな指摘は当時から報道されていた。

 しかし日本政府はそんな合意はないとしつつ、サイドレターの存在をあいまいにしていた。

 戦後日本の輸出主導による経済成長に伴い、米国では対日貿易赤字が増え、1960年代に経済摩擦が始まる。争点は繊維から自動車、そして最先端技術の半導体へ。

 86年には半導体の出荷シェアで日系企業が米国系企業を上回って世界一となり、米国内で日本は不公正だと批判が強まり、半導体問題は日米で最大の懸案となっていた。

 とはいえ、もし半導体大国である日米の両政府が交わしたサイドレターで、「5年間で20%に」という日本市場でのシェアが米国系半導体に約束されているなら大問題になる。