ショールームとして顧客が興味を持ってくれたとしても、販売のクロージングまでいかないのです。

 理由は車の販売プロセスでは大半の顧客が何度もディーラーに来店し、何度も検討しながら、じっくりと考えて最終的に買うかどうかを決めるからです。その何度も来店する顧客は、その車を買って大丈夫か、何度もディーラーの販売員に質問します。

 ここが最大のポイントで、ディーラーの販売員はこれまでその車を買った顧客がどんな体験をしているのか、サービス履歴を通じて事細かに知っているのです。こんな修理が多いとか、こんな不満が実はあるとか、この点は一切気にしなくてもいいとか、過去のたくさんの経験値から購入前の顧客が知りたい情報を提供してくれます。

 一方で日本の自動車メーカーは直営のショールームを設置しています。そのショールームの説明員が何が違うかというと、メーカーとしての商品知識は豊富ですが、ディーラーのようにアフターサービスの経験が少ないために、買った後のことについては公式発表しかできない。これが弱点です。

 イオンはおそらくこれと同じ問題に直面します。来店したお客さんがショールームにやってきて、BYD車に興味を示してくれて、場合によっては試乗もしてくれるでしょう。それで「いい車ですね」というところまで手ごたえはくるのですが、そこからクロージングにもっていけない。結果として計画していた販売台数が達成できないという現象が起きるはずです。

 それを避けるためにはBYDの各地のディーラーから気の利いた販売員を1名ピックアップしてイオンの店頭で販売を担当してもらうといいのですが、それをやると「誰得?」問題が発生します。

 イオンで販売するBYDはイオンの売り上げになるので各地のディーラーにはイオンを育てるインセンティブはありません。そうならないようイオンが一台売れるごとにディーラーにコストに見合った販売奨励金を支払うとするとイオンの利益がなくなります。販売員個人としてもディーラーで販売していたほうが販売成績は稼げます。