メールだけのやり取りで仕事することも当たり前になりましたが、相手が信用できそうか否かは、会って話せば一発でわかったりしますよね。あれってなぜでしょう?
「言葉と音」の関係をひもといた作家&作詞家・高橋久美子さんの新刊『いい音がする文章』から、「声は嘘をつけない」という話を紹介します。(構成・写真/ダイヤモンド社 今野良介)

唯一無二の楽器

誰かと会話するとき、笑うとき、泣くとき、あなたは自分の「音」を鳴らしている。

楽器を演奏しなくても、カラオケにいかなくても、毎日私たちは自分の音を自分で奏でているのだ。

トーン、間合い、方言、早口だったりゆっくりだったり、リズムも違う。指紋と同じように、自分と同じ音を鳴らす人は世界中探してもいない。

そもそもこの体が世界でたったひとつのものだから、声というのは形のない臓器だなと思う。

いい音がする文章 高橋久美子 文章術 太鼓声は自分だけの「楽器」

文字はなかなか伝わらないけど
音は一気にぜんぶ伝わる

「声の仕事」というのがある。歌手や声優、YouTuberやVTuber。

中でも特徴的なのがラジオのDJだ。声優は決められたセリフを読むのでパーソナルな部分は出にくいけれど、長時間フリートークをすることも多いラジオのMCやDJはとても内面が漏れやすい。顔は出ていないけれど、声と間合いだけですぐに「あの人だな」とわかる。

私も、毎週ほぼ台本なしの4時間生放送でラジオのパーソナリティをやっていた時代がありましたが、上手にとりつくろっても嘘はバレてしまうんだなあと思ったことが何度かあったのよね。

他の番組を聴いていても、声のトーンで「○○さん、今日体調悪いのかなあ」とか、食レポでは「本当は美味しくなかったのかなあ」とか、伝わってしまう。

声っていうのは心に近い、自分の心身のバロメーターなんだ。

アナウンサーが感情を出さずに淡々とニュース原稿を読むのには理由がある。声は文よりも心が出やすいので、ニュースに感情が混ざってしまうことを避けるためなんだ。

でも、最近はニュースの途中で感極まって泣いてしまうアナウンサーもいたりと、自分の音を鳴らしたっていいじゃないかという向きも出てきて、そうだよそうだよ、人間だものと思うのであった。

(おわり)