「ありがとう」の回数を増やしてみる
おすすめしたいアクションは、前項でも触れた、一緒に仕事を進める仲間に対して「感謝を伝える」ように促すことです。
「感謝」はとても大きなパワーを秘めています。そのパワーを活用することによって人間関係が良好になり、一体感を心地よく感じられるだけでなく、仕事に対する意欲も高まっていきます。
仕事現場で「ありがとう」の言葉が数多く飛び交うよう促していきましょう。「ありがとう」がなかなか言えないという人については、まずは「すみません」を「ありがとう」に変えてみるよう、すすめてみてはいかがでしょうか。
人によっては、メンバーにあらためて感謝の意を伝えることに対し、「照れくさい」とか、「ちょっと気持ち悪い」と思う方がいるかもしれません。しかし、そんな気持ちをグッと抑えて、まずは感謝の言葉を発するようにすすめてください。
感謝する姿勢、あるいは、感謝を示そうと努力する姿勢がメンバーに伝わることで、メンバーとの関係性はとてもよくなるはずです。
そして、この感謝の言葉は、リーダーから積極的に発していくことが大切です。リーダーから始めてチーム全体に普及させましょう。
感謝を伝えることの効能
仕事現場において感謝の気持ちを表すことは非常に重要です。その効能については過去の膨大な研究結果に数多く示されています[1]。以下にいくつか紹介しましょう。
(1)エンゲージメント向上
感謝の気持ちを頻繁に受け取る職場環境では、従業員のエンゲージメントが高まる傾向があります。調査によれば、感謝を言われる機会の多い従業員は、そうでない従業員に比べて仕事への意欲が高まり、チーム全体のパフォーマンスに貢献します。エンゲージメントの向上は、生産性や効率性の向上につながります[2]。
(2)ポジティブな職場文化
感謝の文化を持つ職場は、ポジティブで協力的な雰囲気を醸成します。従業員同士や上司と部下の関係が良好で、互いに協力しやすくなります。これにより、問題解決やプロジェクトの推進がスムーズに行われるようになります。
(3)モチベーション維持
感謝は従業員のモチベーションを維持し、仕事へのコミットメントを高めます。感謝されることで、従業員は自分の貢献が評価されていると感じ、仕事に対する熱意をもち続けます。モチベーションの低下を防ぎ、長期間にわたる高いパフォーマンスを促進します。
(4)ストレス軽減
感謝の気持ちを表すことはストレスの軽減にも寄与します。感謝の気持ちはポジティブな心理的影響をもたらし、ストレスや不安を軽減するのに役立ちます。職場で感謝のやりとりがあると従業員のメンタルヘルスが改善され、健康的な職場環境が促進されます。
(5)チームビルディング
感謝の気持ちを表すことはチームビルディングにも寄与します。さらに感謝の文化がある職場では、従業員同士の信頼度が高まり、協力関係が築かれます。これによりチームの連帯感が強化され、共同で目標を達成しやすくなります。
(6)顧客満足度向上
感謝の文化が職場に浸透していれば、従業員は顧客へのサービス提供においても感謝の姿勢を持つでしょう。顧客に感謝の気持ちを表すことで、顧客満足度が向上し、ロイヤルティも高まります。
仕事現場で感謝の気持ちを表すことは、従業員のエンゲージメント、モチベーション、ストレス軽減、チームビルディング、顧客満足度など、多くの面で重要な役割を果たします。感謝の文化を育て、積極的に感謝の気持ちを表すことは、職場全体のウェルビーイングに寄与することが証明されているのです。
やらされ感による感謝は効果がない
感謝の気持ちは本心から出るものでなければ意味がありません。相手に対する真摯な感謝の表現は、人間関係を強化し、相手の感情にも良い影響を与えます。感謝を伝えることは、誠実さが感じられる場合にもっとも効果が出ます。
たとえば、ただ単に「ありがとう」と言うだけでなく、メンバーの具体的な言動を取り上げて「○○してくれて、ありがとう」と伝えます。それに加えて、「あなたがいてくれて助かった」「支えになってくれて心強かった」「○○さんの活躍を見て誇らしい気持ちになった」など、リーダー自身の感情も添えるとさらによいでしょう。
ただし、「感謝」には大きな注意点があります。それは、感謝の気持ちを表すことに「やらされ感」があってはいけないということです。
誰かから強制されて行う感謝の表現は、その行為が単なるルーティンとなり、感謝の真の意味が失われてしまいます。誠実さの伴わない感謝では、相手に偽善的な印象を与えてしまい、信頼を損ない、職場内のコミュニケーションに悪影響を及ぼしかねません。
また、相手に感謝を強制的に求めることは、相手にプレッシャーや負担をかけるおそれがあります。これは相手にストレスや不快感を与えるため、かえって関係を損なう危険性を生じさせます。
要するに、感謝を表すことは重要ですが、それは本心から出る誠実な行為でなければならないということです。
感謝するときに大切なのは、誠実さと自発性です。リーダーが率先して、真摯な感謝の気持ちをメンバーたちに伝えることを通じて、より良い職場環境をつくっていきましょう。
*この記事は、『職場を上手にモチベートする科学的方法――無理なくやる気を引き出せる26のスキル』(ダイヤモンド社刊)を再編集したものです。
[2] Unipos社「感謝を言われる頻度が高い人は 従業員エンゲージメントも高いことが判明~勤労感謝の日を前にビジネスパーソン2000名に調査。役職別の特徴も明らかに~」 https://unipos.me/ja/news/kinrokansha








