北京から東京にやってきた、
胡さん夫婦の苦労

 一方、日本に来てはみたものの、苦労しているケースもある。 昨年北京から来日し、現在、東京都内のアパートを借りて、妻と2歳の娘と一緒に暮らしている胡勇(仮名、30後半)さん家族にも話を聞いた。

 胡さんが来日した理由も、先述の劉さんと同じく「子どもの教育のため、家族を守るため」なのだが、胡さんが中国を出た状況は、かなり深刻なものだった。

 胡さんは、中国で行っていたビジネスで詐欺に遭った。その相手のバックに権力者が付いており、解決できなかった上に、家族まで脅迫され、身の危険を感じた。中国社会に失望して日本にやってきたという。

 胡さんは中国の大学で日本語を専攻していた。また夫婦でフランスに留学したことがあり、英語、フランス語が堪能なため、欧米からの旅行者向けの旅行会社を都内で経営している。比較的海外生活の経験も豊富な胡さん一家だが、日本での生活は意外にも厳しい状況のようだ。

 まず、多くの外国人が経験するように、日本に来てから、一番困ったことは、やっぱり住まい探しだった。「外国人と聞いたと途端に断られた。選ぶ権利が全くなく、貸してくれるだけでありがたいという状況だった。中国人の友人に頼って、やっと3階建てのアパートの一室を借りることができた」

 引っ越した後は、デパートで買った品物を持って、隣や上下の階の住民にあいさつ回りをした。本番の時に緊張して言い間違えないよう、あいさつのセリフは事前に何百回も練習したという。

 しかし周囲の住民の様子は、前出の大阪在住の劉さんとは大きく異なるものだった。「住民たちが見る目線が冷たい」と胡さんは話す。あからさまに嫌われていると感じることも多いという。

「心当たりはある」という。「2歳の娘がよく大声で泣いたり、家中を走り回ったりしている。アパートの遮音性が悪く、声がよく漏れる。そして、娘を叱る妻の声がまた大きい。娘へ大声で叱責する妻を止めるために僕も大声を出し、夫婦げんかになる。けんかは中国語だから、住民たちにとっては騒音でしかないだろう。アパートの中には他にも夫婦げんかをしている人がいるけど、日本語だから聞いているほうは(中国語より)気にならないだろうね」。本来ならば、引っ越しをしたいところだが、外国人だと物件探しもままならない状態だ。