「地図」の前に「目的地」を共有する

秦の失敗は、現代の組織変革においても非常に示唆に富んでいます。リーダーが陥りがちな罠は、優れた「制度(=地図)」を設計し、それを配布すれば、組織は自動的に変わると信じてしまうことです。

しかし、メンバーが「なぜその地図が必要なのか」「目的地はどこなのか」を理解・共感していなければ、彼らは決して歩き出しません。むしろ、慣れ親しんだ古い道(=既存の文化)が安全だと感じ、変革に抵抗するでしょう。

変革の「順序」をデザインする

リーダーの皆様の真の役割は、制度という「ハード」を導入する前に、組織の「OS」とも言える文化やマインドセットをアップデートすることです。

例えば「チーム貢献重視」へ移行するならば、制度導入の「前」に、以下のようなステップを踏むことが不可欠です。

1.ビジョンの共有:「なぜ個人主義からチーム重視へ移行するのか」その背景と、それによって組織がどう成長できるのかという未来像を、リーダー自らが情熱をもって語り続けます。
2.対話と理解:制度案をトップダウンで決めるのではなく、現場の不安や疑問に耳を傾け、対話を重ねることで「やらされ感」を「納得感」に変えていきます。
3.小さな成功体験:新しい価値観(チーム貢献)を体現した行動を称賛し、小さな成功事例(スモールウィン)を意図的に作り出すことで、「このやり方でも評価される」という安心感を醸成します。

人の「頭の中」が変わって初めて、制度は組織に根付き、強力な推進力となります。拙速に「答え(制度)」を与えるのではなく、組織と共に「問い(ビジョン)」を育てることこそが、持続的な変革を成功に導く鍵となります。

※本稿は『リーダーは世界史に学べ』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。