ロードスターの潜在能力はマツダの想定以上?
12Rのほかに、排気量2L搭載で街乗りを重視した限定2200台の「マツダスプリットレーシング ロードスター」(526万5700円)の販売も好評だ。
富士スピードウェイ内でユーザーが「マツダスピリットレーシング ロードスター」を試乗する様子 Photo by K.M.
2025年初頭、これら2モデルの存在が明らかになった際、市場には「ライトウエイトスポーツであるロードスターの域を越えているのではないか」という若干ネガティブな声があったのは事実だ。
徹底した軽量化による人馬一体への追求が、“ロードスターのあるべき姿”という考え方が一般的だからだ。
筆者も80年代からこれまで歴代ロードスターを定期的に取材しており、ハイパワーな2Lエンジンを搭載する12Rの登場にかなり驚いた。
一方で、マツダスピリットレーシングの活動を初期段階から取材してきた者としては、第四世代(ND)の車としての奥深さをレースの現場で実感していた。
そうした中で迎えたジャパンモビリティショー2025(一般公開10月31日~11月9日)では、自動車メディアの中でうわさが絶えなかった次期ロータリースポーツ(仮称RX-9)のプロトタイプは登場せず、ロータリーエンジン搭載を想定するも2035年をイメージした「ビジョン-X コンセプト」がマツダブースの主役を張った。
2035年をイメージしたデザインコンセプト「マツダ ビジョン-X」 Photo by K.M.
なぜ、「アイオニック SP」の続編が登場しなかったのか?
こうして12R人気沸騰から次期ロータリースポーツコンセプトへとつながる一連のマツダの商品戦略について、常務執行役員で車両開発・商品開発・デザイン・コスト革新の各領域を担当する佐賀尚人氏にマツダブースで話を聞いた。
以下、Q&A形式で紹介する。
――「12R」への反響に対する受け止めは?
人気があるのはうれしい限りです。次のモデルへの励みになります。
――2Lのハイパワーエンジン搭載車がこれほどユーザーに受け入れられたことについて、その感想は?
我々としても(ロードスターのポテンシャルを)思い知らされました。ロードスターがマツダのものというより、ファンの方の車であることを真摯(しんし)に受け止めたい。
(その上で)マツダスピリットレーシングブランドを大事にし、第2弾、第3弾と、続けていければと考えているところです。(企業メッセージとして)「走る歓び」と申し上げている限り、こうした車を出し続け、ファンのマツダに対する思いを大事にしたい。
――2Lにすることで、ライトウエイトスポーツの枠を超えた印象もあるか?
2Lにすることで(ロードスターという車全体として)どこまでのポテンシャルがあるのかという気持ちが(私自身にも確かに)ありました。ところが、試作車に乘った時にこれはすごいと驚きました。
(ロードスター本来の)コンパクトさとエンジンパワーのバランスがいい。多少パワーがあっても(ロードスター本来の)車としての味をしっかり出すことができている。単純に大きなエンジンを積んでいるわけではないという感覚です。
これは、スーパー耐久参戦でエンジニア(の技術力とものづくりの感性)が磨かれた成果だと感じています。
――こうしてロードスターがハイパワー化すると、マツダスポーツカーという領域で「RX-7」などのロータリースポーツとロードスターの一部が同じカテゴリーになってきたように感じる。その上で、2年前に登場した次期ロータリースポーツの方向を示す「アイコニックSP」は結局、どうなったのか。
アイコニックSPは、次のスポーツカーのコンセプトとして我々の中でいまでも存在しています。(次のスポーツカーの)商品として、そこを目指したいと思っています。ファンの皆さんにはそれを応援してほしい。
――ただ、今回アイコニックSPを量産に押し上げるようなコンセプトモデルは登場せず、2035年をイメージしたビジョンモデルが登場しているが、これをどう解釈すればいいのか。
あくまでも、マツダ第8世代商品群の方向性を示すデザインコンセプトです。
マツダの従来のデザインコンセプトは、例えば「SHINARI」のように最終到達イメージを表現していましたが、今回の2台のコンセプトはクーペとコンパクトでこれは幅を持たせたエッセンスを取り入れながら商品を作るというビジョン。アイコニックSPとは、位置付けを含めてまったく別のモノです。
マツダらしいスポーツカーの未来
「ビジョン-X コンセプト」の車内 Photo by K.M.
――「ビジョン-X コンセプト」は、2ローターロータリーエンジンが直結のプラグインハイブリッド車という設定だ。アイコニックSPではロータリーエンジンを発電機として使うシリーズハイブリッドという発想だったが、ロータリーエンジン開発で何か変化があるのか。
(グローバルでの)環境規制への対応のめどが立ちつつあります。すでに販売している「MX-30 ロータリーEV」開発時と比べて、環境規制への対応性能が着実に向上している。
ベースは同じ「8C」エンジンですが、内部構造などさまざまな研究開発を経て知見が蓄積してきました。そのため、これまでは発電機として一定回転数を使う発想に加えて(通常のエンジンのように)直結で導入も検討しています。
以上が、佐賀氏へのインタビューだ。
自動車産業界はいま、EVへの本格普及に向けた過渡期にある。また、ソフトウエアを主体とする車両開発であるSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)の活用も急激に加速している。
そうした産業として大きな変化があるいまだからこそ、自動車メーカー各社は改めて「ブランド価値」の重要性を再認識しているところだ。
マツダにおいては、「走る歓び」を軸としたブランド戦略を進めており、その中で誕生したマツダスピリットレーシングの量産車「12R」が好スタートを切った。
次世代ロータリースポーツも含めて、マツダスポーツカーの次の一手を大いに期待したい。







