シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。

好奇心を刺激してやまない、世界のエリートが集まる秘密の会議Photo: Adobe Stock

真のエリートは、好奇心を使って
世界を見通す議論をしようと集まる

 初めて「この会」に呼ばれたのは、今から13年ほど前のことだ。「アメリカの山奥で三日三晩語り合う集まりに来ないか?」と突然の招待状が来た。

 会の目的は、「おのおのが世界を理解する助けになること」、のみ。世界を変えるとか選民ぶる「自称エリートの集まり」へのアンチテーゼみたいな会だ。

 面白いことにメンバーのほぼ全員が、そういう高尚な選民的会議の主要メンバーなのだ。だから、そういう会と違って、主催者が金儲けするために開催しているのではない。スポンサーもなし。

 参加者は、世界中で高額で講演をやっているような人たちだが、パネルもスピーチも一切ない。そもそも集まったメンバーについても、話された内容についても全部オフレコ。そのおかげで、そのメンバーが本音で話せる。

 いくつかの分科会に分かれて、90分で一つのテーマについて話し続け、食事の際もテーマがテーブルに与えられ話し続ける。皆と写真を撮ることは禁止。

 こういう風に会の内容を紹介されると「危なさ」とともに、「好奇心」がかなりそそられた。

 初めてこの会に参加した際の率直な感想は、「アメリカの面白さは、ど田舎にラグジュアリー・リゾートがあること」というものだ。

 ど田舎にプライベートジェットで降りられる空港があり、どこからか黒塗りの巨大リムジンがその地方空港に集まる。そして、我々一人一人を山奥の高級山小屋のような施設に運んでくれる。中に入ってみるととても快適。

 ど田舎なのに床暖房で暖炉もあり、レストランもお洒落で美味しくて、ルームサービスもなんでもあった。ジムもプールも最高レベル。世界中のグローバル企業は、莫大な研修費用をかけて幹部を定期的にトレーニングするニーズがあるので、こういう施設がアメリカ各州のど田舎にあるのだ。

 皆キャンプに来たみたいな恰好で現れるので、誰が誰だかはわからなかったが、参加者リストを見てみるとびっくり。あの伝説の巨大投資家、今をときめく有名起業家、ハリウッドスター、アメリカ名門大学の総長たち、外交専門誌の編集長、世界トップのビジネススクールの学長たちなど。

議論の内容を公言することは禁止

 初回の集まりで、今でも私は赤っ恥をかいたことを覚えている。私は「不老不死」のセッションに付け焼き刃で参加した。

 そこで私は、ノーベル賞受賞者の論文を斜め読みして議論に参加したのだが、隣に座った初老のご婦人がやんわりと私の意見を訂正してきた。だから私は、彼女に上から目線で、「私は、このテロメアの論文を読んできたんですよ」と反論した。

 すると彼女は、「あら、ありがとう。でももうちょっとちゃんと読んで」…。

 えっ? あなた誰? まさか?

 そう。その論文を書いた、テロメアの発見者であるノーベル医学・生理学賞受賞者の博士だったのだ。赤っ恥とは、このことだ。

 そんなこともあり、私はこの会に魅了された。人数の少なさ、議論の密度、ここであったメンバーや議論を一切公言してはいけないルール。すべてが魅力的に思えた。

 そして、誰もがすぐに仲良くなれ、誰もがネットワーキングなど考えていないフレンドリーさ。それ以降、多分、今のメンバーでもトップ10に入るくらいの回数、私はこの会に出続けている。

好奇心を原動力に、世界を見通す議論を交わす

 この会では、どんなテーマで議論するかといえば、以下のようなものだ。

 ・私たちが見落としている、あまり議論されていない脅威とは何でしょうか? 一方で誇張されている脅威
とは何でしょうか?
 ・人生の最後の10年をどのように過ごしたいですか?
 ・過去と類似点のない新たな課題とは何でしょうか?
 ・今は人類史上最も素晴らしい時代なのでしょうか?
 ・若い頃と比べて、あなたの価値観はどれくらい違いますか? 10代の頃と比べて?
 ・年を重ねることについて、あなたが価値を認める意外なことは何ですか?
 ・2035年までに経済がAIによって変革されないとしたら、それはなぜでしょうか?
 ・AIの影響を受けない業界はどれでしょうか?
 ・AIよりも大きな変革をもたらす新しいテクノロジーは何でしょうか?

 この会では、ビジネスの案件交換やネットワーキングをすることは禁じられている。

 純粋に好奇心で皆の知見を借りながら、世界を見通す議論をしようと集まるのだ。

(本稿は君はなぜ学ばないのか?の一部を抜粋・編集したものです)

田村耕太郎(たむら・こうたろう)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。