『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は「まだまだ自分は未熟」と思い込む50代が見落としている“本当の一流”について『EXPERT』の本文から抜粋・一部変更してお届けします。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)

新卒 就活Photo: Adobe Stock

50代から見えてくる「熟練」という価値

50代は、多くの人にとって「積み重ねてきたもの」と「これからやること」が交差する地点です。
大きな成果や肩書きよりも、日々の仕事にどう向き合ってきたかが、じわりと人生の質に影響を与え始める時期でもあります。

ここで、ひとつ問いがあります。

あなたは、自分を「達人」だと思ったことがありますか。

おそらく、多くの人は「自分なんてまだまだ」と答えるでしょう。しかし、実は私たちは“達人”を正しく評価できないことがあるのです。

『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』の著者・ロジャー氏はこう言います。

達人の仕事にどれほどの価値を認めるかは、私たちの判断次第という一面がある。そして、私たちはしばしばその判断を誤る。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.11より

つまり、達人かどうかは、必ずしも「目立つ成果」では決まらないのです。

人は「見える達人」しか認めない

コンサートホールでの演奏、名医の執刀、建築家の代表作。私たちは「すごさを直接体験できる仕事」を“達人”と認識します。

コンサートホールや展示場で彼らの技量に触れれば、自分の目や耳や感覚で判断できる。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.10より

一方で、私たちが日々触れている人たち、例えば、混乱しそうな会議を自然に収める同僚や怒り心頭の取引先をいつのまにか落ち着かせる上司、さらには車を修理してくれる整備士や水道の詰まりを直してくれた配管工などは、「達人」としては見ることは少ないでしょう。

これらは「できて当然」に見えるため、評価しづらいのです。しかし、ここに重要な事実が隠されているのです。

整備士に車を修理してもらったり、配管工にバスルームの工事をしてもらったりしても、彼らの高度な専門性に驚くことはない。車やバスルームはあまりにも身近すぎるため、それを扱う仕事にも熟練の技が必要なことに思いが至らないからだ。できて当然と考え、ほとんど気に留めない。だが実際には、このような仕事も長年の経験の積み重ねによって成り立っている。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.10より