「できて当然」に見える仕事ほど、熟達者が支えている

私たちが日々従事している仕事のなかには、特別な称賛も拍手も得られることなく、誰かに「まあ、そのくらいはできて当然だ」と受け取られてしまうようなものが数多く存在します。

ですが、その「当然」に見える振る舞いを支えているのは、実のところ、何十回、何百回、あるいは何千回にもおよぶ試行錯誤の積み重ねなのです。

その過程でゆっくりと育った「違和感に気づく力」、言葉に置き換えることは難しいのに確かに存在する感覚的な判断の精度、そして表面には現れない人間関係の揺らぎや温度差を、言葉より先に身体が察知するような“肌感”にほかなりません。

こうした力は、若い頃に知識や意欲だけで身につけられるものではなく、時間と経験が静かに、しかし確実に組織していったものです。そしてその力は、本人さえも「いつの間にか、できるようになっていた」と思うほど自然な形で、あなたの中に根づいているのです。

50代は「自分の熟練を認める」タイミングである

長い時間をかけて仕事に向き合ってきた40代・50代のビジネスパーソンは、すでに「知識として知っている」「手順を覚えている」という段階を超えて、経験そのものが身体に沈殿したような状態にあります。

すなわち、状況を見て瞬時に判断できる速さがあり、その判断の根拠を自分でも丁寧に説明できないにもかかわらず、不思議と間違わないという感覚が育ち、さらに、人との距離感や場の空気の揺れを壊さずに、物事を前へ進めるための力加減が自然とできている状態です。

これは、年齢を重ねただけでは手に入らず、また、若い時期の努力量だけでも得られないものであり、まさに「熟達」と呼ぶべき性質です。

したがって、今のあなたに必要なのは、「もっと努力しなければ」と焦りを抱くことではなく、自分が積み重ねてきたものを、一度きちんと見つめなおす静かな時間を持つことです。そこにこそ、さらに上のステージへ歩むための視点が宿ります。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』の抜粋記事です。)