やる気ゼロで始めた習いごとが、人生の武器になった日
101歳、現役の化粧品販売員として活躍している堀野智子(トモコ)さん。累計売上高は約1億3000万円で、「最高齢のビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定されたキャリア61年のトモコさんが、年をとるほど働くのが楽しくなる50の知恵を初公開した話題の書『101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものをお送りする。佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)が「堀野氏の技法は、ヒュミント(人間による情報収集活動)にも応用できる」と絶賛(日刊ゲンダイ・週末オススメ本ミシュラン)する世界一の先輩による“人生訓”は、アナタの疲れた心も元気にしてくれる!

【怖いものなし】45歳で早世した母がくれた「最強の教訓」Photo: Adobe Stock

あんた、お琴やりなさいよ

私は昔、女学校に入学してまもなく、「お琴」を習うようになりました。ある日、母が出し抜けに「あんた、お琴やりなさいよ」と言い出したのです。

母自身、お琴を習うことに強い憧れを抱いていたものの、習う機会を得られなかったことを残念に思っていたようです。自分で言うのもおかしな話ですが、私はわりとのみ込みが早く、手先が器用でもあったので、「この娘に私の夢を託そう」とでも思ったのでしょう。

私になんの断りもなく、さっさとお琴の先生を見つけ、入門のお願いまでしてきていたのですから、私としては母に従うしかありませんでした。

母の夢、私の始まり

でも、結果的には母にとても感謝しています。のちに結婚した私は、夫がお坊ちゃま育ちでお金に無頓着だったため、些か経済的に苦労する羽目になるのですが、そのときに役に立ったのが若いころに身につけたお琴だったからです。

やるとなったらとことんやる私は、師範のお免状を取れるまでお琴を続けたおかげで、近所の娘さんたちに教えて月謝をいただくことができて、経済的にとても助かりました。まさに「芸は身を助く」です。

苦境を救った「師範」の看板

また、地元の放送局の開局記念日の式典に呼ばれて、お琴を披露したこともあります。

自分でやりたくて始めたことではありませんでしたが、一生懸命にお稽古したおかげで、得難い芸事が身についたのはありがたいことでした。

お稽古がくれた人生の教訓
早世の母が残した贈り物

何か1つのことを徹底してやれば、自分の人生にとってプラスになるということも、この経験からよくわかりました。

芸事もそうですが、仕事に関しても同じことがいえます。一生懸命」と「積み重ね」――この2つがそろえば、怖いものなしです。

それを知ることができたのは、45歳と早くに亡くなった母からの大きな贈り物だったと思っています。

【解説】キャリアを支える「徹底」と「積み重ね」

著者・トモコさんの体験談は、予測困難な時代を生きるビジネスパーソンにとって、キャリア形成における重要な示唆に富んでいます。母の勧めで始めた「お琴」が、後に経済的な苦境を救う「芸」となったこのエピソードから、私たちは何を学ぶべきでしょうか。

1.動機よりも「やり抜く力」が未来を拓く

トモコさんは、自分から望んでお琴を始めたわけではありませんでした。しかし、特筆すべきは「やるとなったらとことんやる」という姿勢で師範の免状取得まで続けた点です。

ビジネスの世界でも、異動や昇進、あるいは時代の要請によって、意図しない業務やスキルの習得(リスキリング)を求められることがあります。その際、始めた動機が何であれ、一度引き受けたことを「やり抜く」ことが、結果として「自分を助けるスキル」となり、キャリアの選択肢を広げることにつながります。

2.「教えられるレベル」が真の武器になる

トモコさんが苦境を乗り越えられたのは、お琴が単なる趣味ではなく、「師範のお免状」という、他者に指導して対価(月謝)を得られるレベルに達していたからです。

これは、ビジネスにおける「専門性」に他なりません。中途半端な知識や経験ではなく、「あの人に聞けば大丈夫」「あの人に任せられる」というプロフェッショナルの領域まで専門性を高めること。その「積み重ね」こそが、経済的な安定や市場価値の向上という、揺るぎない「看板」となるのです。

3.「芸は身を助く」は現代のポータブルスキル

トモコさんが学んだ「一生懸命」と「積み重ね」は、いつの時代も変わらない成功の原理原則です。変化の激しい現代において、一つの会社や職種だけでキャリアが完結するとは限りません。

若いうちに「とことん」身につけた専門性(芸)は、会社という枠を超えて持ち運べる「ポータブルスキル」となります。トモコさんにとってのお琴がそうであったように、徹底して磨き上げたスキルは、人生のどのような局面においても自分を支える「得難い贈り物」となるのです。

※本稿は、『101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。